記事【小児科医がしくじっていたあの頃】
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【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる書籍「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」を Amazonで見てみる
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こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。
今日は、「小児科医がしくじっていたあの頃」というテーマでお話ししたいと思います。
あなたは、仕事で「しくじったなあ」と思ったことはありますか?生きていれば、「後悔先に立たず」、そんなことは山のようにあるものです。
僕にも、そんなことがたくさんあります。特に、がむしゃらに働いていた若い頃のことを思い出します。色々なことをしくじったなあと思いますね。でも、たくさんの先輩医師が助けてくれました。
そんな色々な経験を積んで、今度は自分が若い医師を指導する立場になって初めて、あの頃、指導医の先生がどんな気持ちだったのかを想像できるようになりました。自分が小児科医として駆け出しだった頃に指導してくれていた先生方は、きっとこんな気持ちだったのかな、そんな風に感じられるようになったんですね。
そんな風に、自分がかつての先輩医師と同じ立場に立ってみて、先輩医師の気持ちが想像できるようになって、今僕はどんな気持ちを抱くと思いますか?それは、やっぱり感謝です。
例えば、経験を積んだ医師であれば、点滴をとることも、採血をすることも、スッとすぐにできてしまいます。研修医の頃の僕であれば10分も20分もかかっていた点滴確保が、今ではものの数秒でできてしまう。そんなことがあるものです。
ちょっと脱線しますが、あなたは採血をされたことはありますか?大人に比べて1歳未満の子どもって、腕の脂肪があるためにプニプニしているんですね。だから、肘の内側から採血をしようとしても、そもそもなかなか血管が見えないことがあるんです。
ある時、若い研修医の先生が「あの子どもの採血できないんです、代わりに採血をお願いできませんか」と言って、僕のところに相談しにきてくれました。よく見てみると、その患者さんは生後数ヶ月のお子さんで、腕がムッチムチなお子さんだったんですね。
でも、その患者さんの腕を持って、採血の針をスッと刺して、無事に採血を終えました。
すると、「どうして採血できたんですか?あの患者さんの血管は見えないですよね。どこから採血の針を刺したらいいかわからなくないですか?湯浅先生の目には血管が見えたんですか?どうしたら血管が見えるんですか?」なんて、言われました。
でも、脂肪が厚くてプニプニしている子どもの腕では、血管が見えないことも珍しくないんです。その時も血管は見えませんでした。でも、そんな子どもの患者さんからも採血しないといけないことは珍しくありません。
そんな時には、解剖学的に考えて採血するんですね。肘のここには解剖学的に考えて血管があるはず。そんな風に目星をつけて採血することもあるものです。
研修医の先生から「血管が見えないのに、どうして採血の針をあそこに刺したんですか?」なんて聞かれた僕は、「そこに血管があるからです」なんて答えました。最初は「は?」みたいな顔をされましたが、目で見えなくても、心には見えてくる。そういうものなんです。
話を戻しますが、そんな風に自分でやってしまった方が早いにも関わらず、僕が研修医の頃、先輩医師は研修医の僕をじっと支えてくれていました。研修医の僕がぎこちない手つきで点滴をとったり採血するのを、「大丈夫かなあ」「頼む、成功してくれ」なんて気持ちで応援してくれていたんだろうと思います。
そんな指導医の気持ちを理解するようになって、かつての恩師たちには感謝しかありません。
あなたにも、そんな経験があるんじゃないでしょうか。会社の上司という立場になって、仕事の流れを想像できるようになって、ようやく昔の上司に感謝できる心の余裕が生まれた。あるいは、親という立場になって、ようやく自分の親に感謝できるようになった。そういうものだと思います。
そういうことを経験すると、どんなしくじりも、いつか経験に変わって、さらには感謝に変わる。そんなことを理解できるようになります。
目の前の子どもたちには、たくさんのしくじりを経験してもらって、それを貴重な体験に変えていってもらいたいと思います。きっと色々なしくじりの過程で支えてもらった経験があれば、いつか感謝の気持ちを持って社会に貢献してくれる心が育つはずです。
今日は「小児科医がしくじっていたあの頃」というテーマでお話ししました。
だいじょうぶ。
まあ、なんとかなりますよ。
湯浅正太(ゆあさしょうた)
PROFILE
2007年 3月 高知大学医学部 卒業。小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。
『みんなとおなじくできないよ』
障がいのある「おとうと」がいる小学生の「ボク」。おとうとのことを好きだけど、ちょっと恥ずかしく、心配にも感じている。複雑な感情と懸命に向き合って「ボク」がたどり着いた答えとは?「きょうだい児」ならではの悩みや不安、孤独な気持ちが当事者の視点から描かれた絵本。湯浅正太著/1760 円(日本図書センター)
『みんなとおなじくできないよ』
診察する, 治療する, 命と向き合う, …医師として働くとはどういうことか, 患者さんにどう接するか, “正解”はなくとも「考えて答えを出していかねばならない」倫理的なテーマについて医学生/研修医に向けて解説。小児科医であり絵本作家でもある著者が, 医療現場のエピソードに沿った「物語」を提供し, 読者に考えてもらいながら倫理観を育んでいく。「明日からの診療に役立つ一言」も記載し, 躓いたとき, 迷ったときに心の支えとなる書籍。湯浅正太著/2420 円(メジカルビュー社)
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