子どもの「生きる」を考える
子どもの「生きる」を考える
小児科医・作家
一般社団法人Yukuri-te
代表理事 
湯浅正太
みんなとおなじくできないよ

小児科医が知っている子どもたちが変わる時

2023/06/13

記事【小児科医が知っている子どもたちが変わる時】

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【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる書籍「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」を Amazonで見てみる

#小児科医 #湯浅正太 #しょーた #Yukuriーte

こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。

今日は、「小児科医が知っている子どもたちが変わる時」というテーマでお話ししたいと思います。

あなたは、子どもたちが変わる瞬間を感じたことはありますか?小児科医として子どもたちに接していると、子どもたちの表情や行動、そういったものが変化する様子に何度も巡り合います。それはどんな時なのか、そんなことをお話ししたいと思います。

あなたは、「自分は成長したなあ」と感じる瞬間ってありますか?以前できなかったことができた時。以前は見通しも立たなかった課題に、見通しを立てて取り組むことができるようになった時。人生経験を積めば積むほど、そんな時がきっとあると思います。

例えば、小児科医である僕であれば、目の前の患者さんの状態を短時間で把握できるようになった時です。研修医の頃であれば、患者さんからそれまでの経過をお聞きして、検査をして、診断をつけるまでに、相当な時間がかかっていました。だって、経験がないですから。一つひとつ考えながら戦っていた若き頃を思い出します。

誰にでもありますよね、そんな若い時の苦労。二度と戻りたくはないななんて思いますけど。でも、あの時の苦労があったからこそ、今の自分がある。そう思います。

今はというと、患者さんが診察室に入ってくる様子を見て、病気の経過を確認したら、おおよその診断がついて、その後の経過も予想できます。昔では1時間も2時間も、下手したら丸1日かかってようやく分かることが、今では数分で解決してしまう。そんなこともあるものです。

例えば、患者さんの方針を決める会議でも同様です。昔だと、あーでもない、こーでもない、なんて色々な議論をして、ようやくなんとなく方針がぼんやり見えてくる。そして上司にダメ出しをしてもらう。そんな若い頃がありました。

今では、会議が始まって、患者さんの情報を手に入れたら、解決策の候補や見通しが立てられる。あーでもない、こーでもない、なんて議論しているのが勿体無い。そんな風にも思います。

色々な経験をして、そんなことを実感するようになると、昔抱いた疑問の答えが見えてくるようになるものです。

例えば、僕は医学部の学生の頃に海外に留学に行ったんですね。その時に、あるメディカルセンターで研修をさせていただいたんです。色々な先生に混じって、多くの患者さんを診させていただきました。

ある時、手足をバタバタさせて意識がない若い患者さんが、その病院に運ばれてきたんです。若い先生たちが診察をして、これはけいれんだとか、あーでもない、こーでもない、と診断について話し始めました。

しばらくすると、年配の先生がやってきてくれて、その患者さんを少し診察して、「これは、本当のけいれんではないね」と研修医の先生たちに伝えたんです。その後に、その意識がなさそうな患者さんに「もう大丈夫だよ」と優しくそっと声をかけたら、そのけいれんらしい動きが止まったんです。

何の経験もない僕は、「この先生は魔法使いか!」なんて思ったものです。その当時は、どうしてその先生が短時間の診察で、その患者さんの様子を把握できてしまうのか、不思議でした。あの時は。

でも、その後、僕も医師として色々な経験を積んで、先輩医師から色々なことを教えてもらって、患者さんたちからも学ばせていただいて、ようやく分かるようになりました。今は、留学中のあの頃の経験を「そりゃそうだよな」と思います。つまり、あの時、その年配の先生が患者さんのどんなところに注目して、どんな診断を下したのかを、今ははっきりとわかります。薬じゃなくて、「もう大丈夫だよ」で治ってしまうことが何故なのかも、よくわかります。

自分の能力を過信してしまうことは慎みたいですが、そうやって自分の成長をふと感じられた時、自分がキリッと生まれ変わるような気がします。外見はもちろん変わりませんが、自分の中に固い芯のようなものができて、あるいはその芯が肉付けされて、心がづぶとくなる感じです。

ちょっと脱線しますが、その年配の先生は短時間の診察をしただけで、その患者さんのことをお見通しのわけですね。世間では、短時間での診療に不満を抱く方もいるかもしれません。もちろん、診療時間が限られる中で多くの患者さんを診察する必要があるからこそ、患者さん一人に割く診療時間が少なくなるわけです。患者さんのお話を聞く時間も限られてしまう。そんな背景があります。

でも、経験のある医師ほど、スパッと病気の診断もその後の展開もわかってしまう。小児科医の僕は、その事実を知っています。逆に経験のない医師ほど、なかなか病気の本質に切り込めない。そんなこともあるものです。

もちろん例外はいくらでもありますが、でも、短時間診療=質が悪い、ということはないんです。ベテランほど、キレの良い診療を短時間でこなしてしまいます。そんなものです。

話はそれましたが、自分の成長を感じると、その人の心はさらに強くなる。表現を変えると、成長を感じられると、自信がつく。そんな風にも言えるかもしれません。

それは、子どもも同様です。ちょっと生活に課題を抱えている子どもには、わざとその子の成長をちょっと感じさせてあげる。昨日までできなかった挨拶ができた。それまで解けなかった問題が解けた。あるいは、身長がこれだけ伸びた。そんな風に、子どもたちにその子自身の成長を感じさせてあげます。

そうすると、自分の成長を意識できるようになった子どもたちには、自信が生まれます。外見では変わらなくても、心の中の芯が太くなります。だからこそ、それまで課題であった物事を乗り越えることができるようになる。そんなものです。

今日もそんな子どもが僕の外来を受診してくれていました。僕の外来を受診してくれていたその子は、引越しをしてきた子でした。引っ越しをしてきて、この春に小学校に入学したら、学校に行きづらくなってしまい、食事も喉を通らなくなってしまった。そんなことがあり、以前に僕の外来を受診された子だったんですね。

その子は不安が強い子でした。なので、その子が自分の成長を感じられるように関わりながら、その子の心の芯を太くしていきました。2ヶ月経って、今では普通に学校に行けて、食事も普通に食べられるようになっています。今日その子にお話をきたら、「何も困ってることはない。学校楽しいよ」、なんて言ってくれていました。そのお母さんにも、「あの時はどうなることかと思いました。ありがとうございます」なんて言っていただきました。

子どもたちは、どうやったら変わるのか。子どもたちの状態を把握して、明確なコンセプトを持ちながら子どもたちに関わることで、子どもたちは確実に変わります。大人が関わり方を工夫するだけで、子どもたちの心は如何様にでも変わる。そういうものです。

子どもたちに成長を感じさせてあげる関わり、ぜひ考えてみてください。

今日は「小児科医が知っている子どもたちが変わる時」というテーマでお話ししました。

だいじょうぶ、

まあ、なんとかなりますよ。

湯浅正太(ゆあさしょうた)

PROFILE
2007年 3月 高知大学医学部 卒業。小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。

一般社団法人 Yukuri-te(ゆくりて)

『みんなとおなじくできないよ』

障がいのある「おとうと」がいる小学生の「ボク」。おとうとのことを好きだけど、ちょっと恥ずかしく、心配にも感じている。複雑な感情と懸命に向き合って「ボク」がたどり着いた答えとは?「きょうだい児」ならではの悩みや不安、孤独な気持ちが当事者の視点から描かれた絵本。湯浅正太著/1760 円(日本図書センター)

『みんなとおなじくできないよ』

診察する, 治療する, 命と向き合う, …医師として働くとはどういうことか, 患者さんにどう接するか, “正解”はなくとも「考えて答えを出していかねばならない」倫理的なテーマについて医学生/研修医に向けて解説。小児科医であり絵本作家でもある著者が, 医療現場のエピソードに沿った「物語」を提供し, 読者に考えてもらいながら倫理観を育んでいく。「明日からの診療に役立つ一言」も記載し, 躓いたとき, 迷ったときに心の支えとなる書籍。湯浅正太著/2420 円(メジカルビュー社)

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