記事【落ち着きがなかったら障害なのか】
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【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる書籍「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」を Amazonで見てみる
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こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。
今日は、「落ち着きがなかったら障害なのか」というテーマでお話ししたいと思います。
明日「小児科医が話す発達障害を理解するために知っておきたい知識」というテーマの放送を流す予定です。今日はそれに関連して、「落ち着きのなさ」に対する捉え方を考えたいと思います。
あなたの周りには、落ち着きがない人っていますか?いつも歩き回っている。いつも誰かに話しかけている。いつも体をモゾモゾ動かしている。よくそんなに活動する元気があるなあと感じる人、あなたの周りにはいますか?
僕がこれまで生きてきて、患者さん以外で、日常生活の中でそんな人に出会うことはありました。その人たちの中には、生活での失敗を繰り返している人もいれば、楽しそうに生活している人もいました。
例えば、そういった落ち着きのない人に出会った場合に、あなたはそれを障害と捉えますか?別の聞き方をすると、何をもって障害と決めるんでしょうか?
僕が講演会でこんな質問をすると、中には「ちょっと変わっているから」「普通とは違うから」と答えてくれる人がいます。そんな答えが返ってきた時には、僕はこんな風に聞き返します。
「例えば、その人が人気がある売れている芸能人だった場合はどうでしょう?落ち着きなくベラベラ喋れるからこそ社会で成功している方だったとしても、それを障害と捉えますか?あんな個性があるから、人気が出て売れて社会で成功しているんだなあ、羨ましいなあ、なんて思いませんか?」そう聞くと、大抵「そうですけどお・・・」という風に答えが返ってきます。
「ちょっと変わっているから」「普通とは違うから」という視点で障害かどうかを決めるとしたら、障害という言葉はただのレッテルに過ぎません。障害という言葉は、社会に困っていることを示すための言葉です。障害があることを示すために手帳を取得するのは、困っている現状に対して社会的支援を受け取るためです。障害という言葉を決してレッテル貼りのための言葉にしてはいけない。そんな風に思っています。
つまり、障害というからには、「困っている」必要があるんです。その困っていることを社会に示すための言葉なので、「困っている」ことが必要なんです。
ですから、その人がちょっと変わっていても、生活に支障なく困っていなければ、それは障害とは言わないでしょう。もちろん、生活に支障なく暮らしていれば、病院を受診することもないでしょう。病院受診する人は、困っているから受診するんです。
この理解は、障害を診断する医師として、とても大切なことと思っています。「生活に支障をきたして、本人が困っているのか」ということ、それは障害を診断する上で意識すべきことと思っています。
もしも本人が何も困っていないのにも関わらず、障害の診断を求められた場合、レッテル貼りの片棒を担がされているのではないかと警戒します。
しかも・・です。「落ち着きがない」と一言で言っても、その背景には色々な原因が潜んでいることもあるんです。
例えば、体がかゆいアトピー性皮膚炎があって、体が痒いために夜まともに熟睡できなくて、日中の注意が散漫になってしまう人。そういう人は落ち着きのなさが目立つ場合も少なくありません。そういう方は、皮膚の治療をしてアトピー性皮膚炎を良くすることで、日中の態度も変わる。そういうことがあるものです。
例えば、夫婦喧嘩が絶えない家庭の中で生活している子どもです。家庭にいてもお父さんとお母さんが毎日喧嘩しているために、子どもの心が休まることがない。そんな状況の時には、その反動が子どもの落ち着かない行動として現れてしまうこともあります。周りの悪い環境のために、子どもの落ち着きのなさが現れる。そういうこともあるんです。
こういった子どもたちは、「落ち着きのなさ」というよりも、その背景にある課題で悩んでいるものです。その子たちの落ち着きのなさを障害と診断しても、問題は解決しません。その子たちの落ち着きのなさを叱っても、問題は何も解決しないんです。皮膚の状態を治したり、家庭環境を治さない限り、その子どもたちは救われないんです。
しかも、子ども自身は、自分の「落ち着きのなさ」の原因を知りません。皮膚のコンディションが悪いことが原因であること、お父さんやお母さんの態度が原因であること、そういったことを理解できるはずもないんです。素直な子どもほど、「自分が悪いんだ」と自分のことを責めるものです。
そんな現実を知っているので、僕は障害と診断する上で、その子が本当に困っていることは何なのか、ということに注意するようにしています。障害と診断することでその子が救えるのか。障害と診断することはただのレッテル貼りで、もっと深いところにある課題を解決しなければ、その子を救えないのか。そんなことを考えます。
それは、本気で子どもたちを救いたいと思っているからです。だって、子どもの心って、一生ものなんです。子どもの時期にSOSを拾ってあげられるかどうかが、一生に影響するんです。
今日は「落ち着きがなかったら障害なのか」というテーマでお話ししました。
だいじょうぶ、
まあ、なんとかなりますよ。
湯浅正太(ゆあさしょうた)
PROFILE
2007年 3月 高知大学医学部 卒業。小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。
『みんなとおなじくできないよ』
障がいのある「おとうと」がいる小学生の「ボク」。おとうとのことを好きだけど、ちょっと恥ずかしく、心配にも感じている。複雑な感情と懸命に向き合って「ボク」がたどり着いた答えとは?「きょうだい児」ならではの悩みや不安、孤独な気持ちが当事者の視点から描かれた絵本。湯浅正太著/1760 円(日本図書センター)
『みんなとおなじくできないよ』
診察する, 治療する, 命と向き合う, …医師として働くとはどういうことか, 患者さんにどう接するか, “正解”はなくとも「考えて答えを出していかねばならない」倫理的なテーマについて医学生/研修医に向けて解説。小児科医であり絵本作家でもある著者が, 医療現場のエピソードに沿った「物語」を提供し, 読者に考えてもらいながら倫理観を育んでいく。「明日からの診療に役立つ一言」も記載し, 躓いたとき, 迷ったときに心の支えとなる書籍。湯浅正太著/2420 円(メジカルビュー社)
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