記事【小児科医が知っている自分らしさを隠す子ども】
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【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる書籍「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」を Amazonで見てみる
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こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。
今日は、「小児科医が知っているその子らしさを隠す子ども」というテーマでお話ししたいと思います。
あなたは、あなたらしさってなんだと思いますか?そのあなたらしさに、あなたは気づいていますか?あなたがなんとなくあなたらしさに気づいていたとして、そのあなたらしさをひたすら隠して生活することを想像してみてください。あなたは、どんな思いを抱くでしょうか。
小児科医として発達外来をやっていると、たくさんの個性的な子どもたちに出会います。電車がとっても好きな子、歴史の人物に詳しい子、数字の世界に関心のある子。本当に色々な子どもたちに出会うことができます。僕からしたら、「すごい才能を持っていて、将来が楽しみな子どもたち」です。
でも、世間からしてみたら、もしかすると「ちょっと変わった子」なんて指摘されかもしれません。ましてや同年代のお友達に彼ら/彼女らの良さを理解してもらうのは、なかなか難しいかもしれません。
元々人は、自分とは違う特徴を持っている者に対して、本能として違和感を覚えます。それが人間ですから、仕方ありません。人生経験を積んだ大人でもそうなんですから、子どもたちにはそのことが顕著に現れます。自分とは違った特徴を持っている子に対して、「変な子」と意識してしまう。そんなことがあるものです。
ある時、僕の外来を受診してくれた子が、こんなことを言ってきたんです。「学校ではね、僕っぽさを隠してるんだよ」、そんなことを教えてくれました。周りのお友達がその子らしさを揶揄うから、自分らしさを出さないように生活しているんだそうです。
その子は、科学や生き物のことがとても好きだったんですね。生活の中で目にするあらゆる現象とか、昆虫の生態とか、宇宙のこと、そういった話を語るのが好きな子でした。その様子が、他の子からしたら、「ちょっと変わっている」と映るんでしょう。自分の大好きなことはあまり話さないで、なるべく周りに合わせようとしているんだそうです。
人の心の発達を考えた時、個性や特徴をその人らしさとして表現できることは大切なことです。その子のアイデンティティを確立する上で欠かせない要素といっても過言ではありません。
でも、時には子どもたちが自分らしさを隠すことがあります。例えば、いじめや差別などのネガティブな経験した場合に、子どもたちは自分を守るために自分の行動を変える場合があるでしょう。
それは、ある種自分らしさの否定につながると言えるかもしれません。だからこそ、その子の自己肯定感や自尊心の低下を伴います。それに、内面の葛藤やストレスを抱えることで、心理的な負担が増えることもあります。
さらには、自分らしさを隠す行動は、子どもの個性や才能の発展を妨げる可能性もあります。創造性の発揮が制限される場合があるからです。
例えば、世の中には、女の子の制服はスカート、男の子の制服はズボン、そういった固定観念があります。それは、一方的なその人らしさの否定とも言えるかもしれません。無意識あるいは無関心からくるその子らしさの否定とも言えるでしょう。
自分らしさへのネガティブなイメージを抱くことは、その子のアイデンティティの形成に影響をきたします。「自分って、いったい何者なんだろう?」、そういった気持ちを抱きながら、自分自身を受け入れがたい心が形成されるわけです。
診察室でそんな子どもたちを前にすると、せめて診察室での経験はその子の心をポジティブな方向へ導く体験であってほしいと思うわけです。だから、「君らしさの価値を感じる」ということを子どもたちに伝えるようにしています。それは、お世辞でもなんでもなくて、本心ですね。
今日は「小児科医が知っているその子らしさを隠す子ども」というテーマでお話ししました。
だいじょうぶ、
まあ、なんとかなりますよ。
湯浅正太(ゆあさしょうた)
PROFILE
2007年 3月 高知大学医学部 卒業。小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。
『みんなとおなじくできないよ』
障がいのある「おとうと」がいる小学生の「ボク」。おとうとのことを好きだけど、ちょっと恥ずかしく、心配にも感じている。複雑な感情と懸命に向き合って「ボク」がたどり着いた答えとは?「きょうだい児」ならではの悩みや不安、孤独な気持ちが当事者の視点から描かれた絵本。湯浅正太著/1760 円(日本図書センター)
『みんなとおなじくできないよ』
診察する, 治療する, 命と向き合う, …医師として働くとはどういうことか, 患者さんにどう接するか, “正解”はなくとも「考えて答えを出していかねばならない」倫理的なテーマについて医学生/研修医に向けて解説。小児科医であり絵本作家でもある著者が, 医療現場のエピソードに沿った「物語」を提供し, 読者に考えてもらいながら倫理観を育んでいく。「明日からの診療に役立つ一言」も記載し, 躓いたとき, 迷ったときに心の支えとなる書籍。湯浅正太著/2420 円(メジカルビュー社)
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