子どもの「生きる」を考える
子どもの「生きる」を考える
小児科医・作家
一般社団法人Yukuri-te
代表理事 
湯浅正太
みんなとおなじくできないよ

支える子どもたちの学び

2023/03/01

記事【支える子どもたちの学び】

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【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる書籍「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」を Amazonで見てみる

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「小児科医 湯浅正太 の診察室」、今日は 「支える子どもたちの学び」というテーマで、「松陰高等学校 浦安校」の校舎長でいらっしゃる、山内 雄司(ヤマウチ・ユウジ)さんがゲストです。

山内さんが務めていらっしゃる「松陰高等学校 浦安校」さんは、不登校のお子さんも利用しやすい通信制高校です。

そんな松陰高等学校では実際にどんな学びが得られるのか、小児科医 湯浅正太が聞きます。  

1)「松陰高等学校 浦安校」さんのご紹介

湯浅:

不登校のお子さんも利用できる「松陰高等学校 浦安校」は、どんな学校なのですか?

山内:

ご紹介ありがとうございます。松陰高等学校 浦安校は、2019年に学習塾を運営母体として開校した広域制通信制高等学校の学習センターです。

通信制高校とサポート校はよく間違えられるので、少し説明させてください。通信制高校は高校ですので、卒業証書の発行ができます(当たり前ですね)。通信制高校の卒業のためには、スクーリングに参加すること、レポートを提出すること、テストを受けて合格することの3つが必要です。このスクーリング・レポート・テストの3つはとても重要ですのでちょっと頭に入れておいてください。

私たち松陰高校は、高校ですので当然この3つを行っています。

一方、サポート校は高校ではありません。先ほどお話したうちのレポートの指導を主に行っていて、塾に近い存在と言えます。ですから、サポート校に通っただけでは卒業資格は取れません。卒業するためには、スクーリングやテストなどを受ける必要があり、これらはふだん通う教室とは別のところとなります。すこし、話が複雑になるのですが、通信制高校の中にも、スクーリングなどをふだん通う教室と別なところで受けなければならない学校もあります。合宿が義務つけられている学校などがそうです。つまり、卒業に必要なスクーリング・レポート・テストの3つすべてが、ふだん通う浦安の校舎で完結するのが私たちの特色の1つです。

生徒の皆さんに「どこが気に入って入学したの?」と聞くと、多くの生徒が「同じ校舎で高校卒業資格が取れるから!」と答えます。次いで多いのが「個別指導で周りを気にせず勉強できるから」と言われます。やはり、生徒にとって負担が少なく、学業に専念できる環境がよいのかな、と思っています。

ところで、この浦安校が設立されたのは3年半前です。今度の3月9日に、初めて3年間在籍していた生徒たちの卒業式を迎えます。私たちにとって感慨もひとしおという状況です。

2)通信制高校での生活

湯浅:

不登校のお子さんたちが「松陰高等学校 浦安校」のような通信制高校を利用した場合、卒業までにどんな生活を送るのでしょうか?

山内:

そうですね、通信制なので、毎日通学する必要はありません。先ほどお話したスクーリングとテストだけ学校に来れば卒業することができます。極端な話をすれば、1年のうち2-3週間だけ通えば良いのです。

そうはいっても、私たち松陰高校に通う生徒の大多数が、週に2日以上通学しています。もともと不登校で「通えるかな?」と不安に思っている方がほとんどですが、松陰高校に入学したら通えるようになる生徒が多いです。

教室はすべて自由席で、個別指導なので教室に入りやすいのかもしれません。レポートの指導を受ける生徒もいれば、小学校・中学校の学び直しをする生徒もいます。周りを気にせず自分のペースで学習を進められるよう、私たちスタッフも環境づくりに努めています。

また、大学進学を目指す生徒が増えてきています。いや、正しくお伝えすると、入学当初は高校入学が精一杯で大学進学を考えていなかった生徒が、入学後やりたいことを見つけて進学を目指すようになります。先ほど、初めての卒業を送り出すという話をしましたが、第一期生は、東京理科大や神田外国語大学、大東文化大、立正大学、二松学舎大学などの多くの大学に進学しました。松陰高校では面接や小論文で合格を勝ち取る「総合型選抜入試」に力を入れています。母体が学習塾ということもあり、20年間培ったノウハウを活かして指導しています。大学進学が決まり、自信に満ち溢れた生徒の顔を見ると、私たちスタッフも最高にうれしい気持ちになります。

先ほどより学習についてお伝えしておりますが、月に一度校外学習も行っています。ソラマチに行ったり、歴史博物館に行ったり、カポエイラの授業に参加したり、旅行に行ったり・・・高校生ならではの楽しい3年間が過ごせたらと思っています。すべて自由参加制です。興味のある校外学習に参加して、気の合う仲間をつくっています。

3)通信制高校の課題

湯浅:

子どもたちの学びを考えた時に、通信制高校での課題としてはどんなものがあるのでしょうか?

山内:

はい、課題は2つあると認識しています。

1つ目は学費の問題です。通信制高校は学校に通わないから学費が安いと思っている方が多くいます。ただ、残念ながらそうではありません。どの通信制高校も程度の差はありますが、全日制より家庭の負担が重いのが実情です。全日制高校は就学支援金によって、ほぼ全額が国費などで賄われていますが、通信制の場合はその一部しか負担してもらえません。この辺りは大きな課題だと認識しています。

2つ目は通信制高校を当たり前の進学先としてもっと認知させる努力をしなければならないという点です。残念ながら、私たちの高校に来る生徒や保護者の多くは、本当は全日制に行きたかった、ただ、諸事情によりやむなく通信制を選んだと、という方が多くいらっしゃいます。この認識を是非とも変えていきたい、いや、変えなければならないと強く思っています。先ほどからお話しています通り、そもそも全日制と通信制は仕組みそのものが違います。一口で言えば、全日制は毎日学校に通う、いわば、コース料理のメニューの学校、一方、通信制は自由度の高い、アラカルトメニューの学校です。どちらが優れているとか、どちらが一般的かという問題ではなく、その子に合った学校はどちらなのかという視点が大切だと思っております。太平洋戦後に現在の全日制中心の教育制度が作られましたが、すでに、80年近くが経過しました。制度そのものが老朽化していることは多くの方が指摘している通りです。その中で、自由度が高い通信制の役割はますます高まっていると認識しています。私たちはもっともっと頑張らなければなりません。

4)日本社会は不登校にどう向き合っていくべきか?

湯浅:

不登校の現場を見てこられて、今後の日本社会は不登校にどう向き合ったらいいと思いますか?

山内:

この問題については多くの識者が様々な視点で論じています。ですから、一般的なお答えではなく、あくまでも松陰高校という狭い窓から見た私の感想を述べたいと思います。

1つ目は、今の時代、不登校は特別なことではなく、「当たり前」という視点を持つことが大切だと思います。不登校の原因は本当にさまざまです。いろいろ話を聞いてみれば、「そうだよな。もっともだな。学校に通わないのは当たり前だよな」と感じることです。不登校の原因への対処も必要ですが、もっと大切なのは、不登校によるマイナスイメージを無くすことだと思います。不登校そのものは何の問題もありません。ただ、不登校によって本人やご家庭がマイナスイメージも持つとしたら、それは大問題だと思います。

2つ目は今お話ししたことと関連しますが、今の教育は制度疲労を起こしています。従って、今の教育制度に乗っていける子どもはよいのですが、そうではない子どもをもっと大切に育てなければならないということです。よく文科省などは、論理的思考力や創造性や問題解決能力などが必要と言いますが、これらの力を根本的に養うことができるのは、既存の学校制度になじまない不登校の子どもたちに対応しているところこそが持っている、と認識しています。この子どもたちが潜在的に持っている能力をもっと高めて、それを顕在化させることが、大げさに聞こえるかもしれませんがこれからの日本を支えていくと自負しております。

湯浅:

どうもありがとうございました。本日のゲストは、「松陰高等学校 浦安校」の校舎長でいらっしゃる、山内 雄司さんでした。

湯浅正太(ゆあさしょうた)

PROFILE
2007年 3月 高知大学医学部 卒業。小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。

一般社団法人 Yukuri-te(ゆくりて)

『みんなとおなじくできないよ』

障がいのある「おとうと」がいる小学生の「ボク」。おとうとのことを好きだけど、ちょっと恥ずかしく、心配にも感じている。複雑な感情と懸命に向き合って「ボク」がたどり着いた答えとは?「きょうだい児」ならではの悩みや不安、孤独な気持ちが当事者の視点から描かれた絵本。湯浅正太著/1760 円(日本図書センター)

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