記事【障がいのある子とそのきょうだいについてのいい質問】
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【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる書籍「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」を Amazonで見てみる
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こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。
2023年2月23日の今日は、「障がいのある子とそのきょうだいについてのいい質問」というテーマで短くお話ししたいと思います。
あなたの家庭に障がいのあるお子さんがいた時、その子のことを”同胞”、その子の兄弟姉妹のことをひらがなで”きょうだい”と表すことがあります。そんな“同胞”と“きょうだい”の仲が良くない場合、親はどうすればいいでしょう?、そういう質問をいただくことがあります。今日は、そのことを考えたいと思います。
先に答えをお伝えすると、その原因は子どもたち自身にあるのではなくて、子どもたちへの親の関わりに原因があるということです。ただ、このお話は、親の努力が足りないとか、親の関わりが悪いとか、そんなことを指摘したいわけではありません。そういうことではなくて、このことを社会に知ってもらいたいという気持ちが強いんですね。社会に子どもの心が育つカラクリを知っていただきながら、親が子どもに関われる社会を実現したい、そんな思いからこんな情報を発信しています。
ところで、あなたには兄弟姉妹はいますか?僕には兄弟がいます。僕が長男で、弟が二人います。弟たちがどう思っているかは分かりませんが、僕自身は弟たちのことを大切な存在と思っています。弟たちが困ったら助けたいと思うし、それが兄弟として当然と捉えています。
でもそれは、僕自身が生み出した気持ちではないのですね。僕自身は弟たちのことを大切な存在と思えていますが、僕が「弟たちのことを大切な存在と思おう」と考えて、こういった気持ちを抱いているわけではありません。
ここで、そのことをもう少し考えていきたいと思います。
世の中には残念ながら兄弟姉妹同士の仲が悪いご家庭もあるでしょう。時代を遡れば、昔は家庭の中で長男は重宝されていた時代もありました。「この家を継ぐのは長男」、そんな認識から長男が優遇されて、長男以外の兄弟姉妹はややお粗末な待遇をされてしまった時代もあったでしょう。そんな時代には兄弟同士がお互いに傷つけ合うこともあったのです。
その様子から分かるように、兄弟姉妹の中で誰かが特別に優遇されるような環境があると、兄弟姉妹同士の不和が生じてしまうことが少なくないのです。「親は長男ばかり見ている」「弟の僕、妹の私なんて、どうせ後回しなんだ」、そんなひねくれた心が生まれてしまうものです。
では、兄弟姉妹の中で不和が生まれないために、どんなことができるのでしょうか。
そのために必要なことは、親が兄弟姉妹に個別に関わるということです。兄弟姉妹の誰かを優遇するということなく、親がそれぞれの子どもに関わってあげること、それがとても大切です。
そのことを理解したうえで、現実的にそれが可能なのかを考えたいと思います。
もしも、家庭の中に障がいや病気のあるお子さんがいたとします。障がいがあれば、どこか生活に不自由な点があり支援が必要でしょう。病気で特別な配慮が必要かもしれません。その支援や配慮は誰がおこなうことになるのでしょうか。
そうです、主に親が障がいや病気のある子どもへの支援や配慮を担うことになるでしょう。
障がいや病気のある同胞には、より多くの時間をかけて親が関わる必要があるでしょう。同胞に知的障がいがあれば、その子は物事を理解するスピードがゆっくりなため、学習に多くの時間を割く必要があるかもしれません。同胞に身体障がいがあれば、その子は親に手伝ってもらいながら移動したり物を扱ったりする必要があるかもしれません。
やはり、他のきょうだいに比べて、どうしても親が同胞に多くの時間関わらないといけない。そんな状況が当たり前です。だからこそ、親から兄弟姉妹への関わりに「偏り」が生じてしまいます。兄弟姉妹に偏りなく接したいと親は思っても、それが叶わない。そんな現実があるのです。
だから、きょうだいという立場の子どもたちには、同胞に向けた様々な思いが生まれるかもしれません。小児科医として色々なきょうだいに出逢っていくと、家庭では口にできない気持ちをそっときょうだいの子どもたちが教えてくれます。
例えば、「本当はお母さんと一緒にどこかに遊びにいきたいんだよ」「本当はお父さんとお風呂に入りたいんだよ」、そんなことを教えてくれます。
障がいや病気を身近に感じたことのない人であれば、「親と一緒に遊びに行ったらいいじゃない」「お風呂も入ったらいいじゃない」、そんな風に思うかもしれません。でも、それができないことがあるのです。そういう現実が実際にあります。
そういった、親から子どもたちへの関わりに「偏り」が生じてしまった結果、きょうだいが同胞を素直に愛せない、そんな心が現れてきます。
でも、冒頭でお話ししたように、兄弟姉妹同士、仲良くしてもらいたい。そんな風に親御さんは思うものです。それは、親なきあとのことを考えても、そうあってほしいと思うでしょう。
親御さんはいつまでも生きていられません。人間ですから寿命があります。いつまでも子どもたちと一緒の世界を過ごせるわけではない。いつか親御さんが亡くなって、兄弟姉妹で生きていく時期がやってきます。その頃には、きょうだいに新しい家庭があるかもしれません。きょうだいには子どもができて、新たな人生のステージを経験しているかもしれません。
そんな親なきあとに兄弟姉妹が仲よくお互いに助け合いながら生きてくれたら、親御さんとしてはホッとするでしょう。
そういった、障がいや病気のある家庭の人生を社会が想像できるかどうか。それによって、親御さんの生きやすさは格段に変わってくるでしょう。社会がその家庭の様子を想像できるからこそ、その親御さんの生きやすさを生み出す工夫を考えられるようになるかもしれません。
その工夫には、単一の答えがあるわけではなくて、幾つもの答えがあるでしょう。親が子どもたちに関われるように、時間的な支援も必要でしょう。親が子どもたちにあらゆる経験を積ませてあげるために、ある程度経済的な支援も必要でしょう。親の心の余裕を生み出すために、子どもを一時的に預かる空間的な支援も必要かもしれません。
どれもこれも必要なのが、親子の支援なのです。
困っている人は自らSOSを出すことは難しいものです。そのことをある講演会でお話しした時に、「では、社会はどうすればいいのでしょう?」という質問をいただいたことがあります。その質問に込められた思いは、「障がいや病気を一緒に考えていきたいけれど、僕たち/私たちにできることは何でしょう?」という気持ちでした。
その質問に僕は「いい質問ですね」と答えて、続けてこうお話ししました。「その親御さんにそっと寄り添いつながろうとする姿勢が大切かもしれないですね」とお答えしました。
相手の気持ちを想像しながら、そっと寄り添う。そういったつながりが自治体・学校・病院・企業に生まれてくれればと思います。そういった社会のネットワークが障がいや病気のある生活を想像できるようになって初めて、親御さんたちに少しずつ余裕が生まれて、子どもたちへの関わり方を工夫できる時期がやってくるでしょう。
兄弟姉妹が仲良く人生を全うできるように、社会が親御さんの心に寄り添う機会を増やしたいものです。
今日は、「障がいのある子とそのきょうだいについてのいい質問」というテーマでお話ししました。
だいじょうぶ、
まあ、なんとかなりますよ。
湯浅正太(小児科医、Yukuri-te代表 https://yukurite.jp/)
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