記事【Part2努力を認めてあげれば失敗も成功につながる】
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【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる書籍「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」を Amazonで見てみる
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おはようございます。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。
今日は、昨日のお話しの続きですね。子どもが頑張っていたことを続けられなくなっている時、どうするかということですね。そのことを考えるために、実際に僕の外来を受診した子どもの話をしてみましょう。その子のことを、Aくんとしておきますね。いつかの放送でも、少し触れたかもしれません。
Aくんは、1週間後にマラソン大会を控えていました。そんなある時突然足が動かなくなったと言って、僕の外来にやってきたのですね。お母さんに連れられて、病院の車椅子に乗りながら、僕の外来の診察室に入ってきてくれました。その後、お母さんとAくんから個別に話を伺いました。そして、お母さんの前でAくんの診察をさせてもらいました。
Aくんの診察を進める中で、足が動かないだけの身体の異常がないことがわかりました。Aくんは足が動かないように振る舞っていましたが、僕は身体の仕組みを理解している医師ですから、診察所見と症状の間に矛盾があることがわかってくるわけです。これらの所見があるのであれば、足が動かないはずはない。そんなことがわかるのですね。
Aくんの診察を終えた時点で、異常はなさそうと判断できました。そのうえで念のため検査も行いましたが、やはり検査でも異常はありませんでした。診察でも、検査でも、異常を認めない。であれば、どうして足が動かないのでしょうか。それは、心が原因だからです。
Aくんは、とても頑張り屋さんで真面目な子でした。学校の先生から指示されたことは、しっかり行う。だから、学校での仕事も任されることが多かったようです。でも、そんなAくんにも苦手なことがありました。運動です。特に長距離を走るマラソンは、苦手だったようです。マラソン練習がある日はなかなか登校せずに、お家でぐずぐずしていることが多かったようです。
人は、心が過剰なストレスを感じて、そのストレスを解消できない時には、そのストレスを身体の表現として表すことがあります。Aくんの場合、心の悲鳴が足が動かないという症状として現れたということです。
人によっては、それを仮病と言うかもしれません。つまり、足が動かないことをその子のせいにしてしまう人がいるものです。でも、それは何の解決にもつながりません。ですから、そういった子どもに対してこう言った発言はしません。例えば、「診察でも、検査でも異常がない。足が動かないはずがない。嘘をつかないでください」なんてことは言わないのですね。
そうではなくて、足を動かすことができないという症状を示さなければならないほど、心の負担が大きいことを認めてあげるべきです。そういうことをしてまで助けを求めている。そう考えるのですね。
ですから、心の負担が大きくなってうまく生活できなくなった子どもに伝える言葉は、「これまでよく頑張ったね」です。こんなに大きなストレスを抱えて、これまでよく頑張ってきたね、そうやってその子のことを認めることから立て直しを図ります。
それは別に嘘をついているわけではないです。子どもを認めるべきではないけれど、わざと認めてあげるということではありません。心から、「君は頑張っている」と理解するということです。
そうやってその子を認めたうえで、親御さんと相談することがあります。それは、「十分頑張ったのだから、これ以上頑張らなくてもいい」という保障を与えてあげるということです。ですから、親御さんとは子どもの心に起きていることをお話しして、子どものSOSを親御さんが受け止められる状況を作るのです。それが大切です。
Aくんのお話に戻りましょう。お母さんにAくんの心のことをお話ししました。心が原因で、足が動かない状態になっていることを説明したのです。そのうえで、Aくんに何と伝えたか。それは、「これまでよく頑張ったね。マラソンは、一旦休んでもらえないかな」とお伝えしました。そうやってストレスフルな環境から一旦身を引く保障を与えたということです。もちろん仮病という言葉はいっさい使いませんでした。
それで、Aくんはどうなったと思いますか。翌日から、足が動くようになりました。これまでのことが嘘だったかのように、足が動き、学校にも楽しそうに行くようになったそうです。
話はここで終わりません。こういった対応の見通しを知っていただくためにも、ここからが大切です。つまり、子どもが取り組んでいる課題を達成できなかった場合、その結果ばかりを評価するのではなく、子どもがそれまでに努力してきた過程を認めてあげること。それによって、達成できない癖がつくのか、どうなるのかを知っていただきたいと思います。
Aくんが僕の外来を受診したその1年後、またマラソン大会の時期がやってきました。そりゃそうですね。毎年マラソン大会があるのです。みなさんは、Aくんはどうなったと思いますか。1年前にマラソン大会を休んだ経験をしているから、休み癖がついて、またマラソン大会を休んだと思いますか。マラソン大会を休もうと、足を動かさなくなったと思いますか。
いいえ、違います。1年後のマラソン大会には参加しました。そして走り終わった後には、こんな言葉を見学で参加していたお母さんに言ったそうです。「やあ、きつかったあ」と笑いながら言っていたそうです。笑いながらです。つまり、1年前のマラソン大会の時には失敗と思われたことでも、それまでの努力を認めてあげることで、1年後には成功に変わっていたということです。
子どもが何かを達成できなかったとして、その達成できなかったという結果だけを見るのか。それとも、そこまでの頑張りを認めてあげるのかで、子どもたちの失敗の後の展開が大きく変わります。その見通しを知っているかどうかで、人生の生きやすさが格段に変わります。
もしも1年前にマラソン大会を休んだAくんに対して、「マラソン大会休んじゃったのね。仕方ないわねえ」だけで終えていたら、マラソン大会に参加しなかったことは、ただの失敗体験に終わってしまいます。それまで頑張ってきた努力があったとしても、その努力があらゆる面で報われないということですね。それは、とてももったいないですね。
しかも結果だけを評価され続けていると、子どもたちの中に失敗を恐れる心が育ちます。それって、大きな生きづらさを作ってしまうのです。だって、人生の中で失敗がないことなんてことはないからです。たくさんの失敗をするからこそ、様々な工夫ができるようになって、そして一つの成功を手にします。そんなものです。
そう考えると、好奇心を持ちながら、いかに「失敗も成功のうち」と楽しめるかが大切であることがわかります。これは、学校行事、部活、受験、あらゆる物事に通じることです。ただの失敗で終わらせてしまうのか、次の成功につなげてあげられるのかは、周囲の関わり方次第なのです。
結果だけを見るのではなく、その過程を評価する。そうすることで、「どんなに失敗しても、そこまで頑張った自分を親は評価してくれる」、そんな気持ちを子どもが持てれば、失敗が将来の成功につながるものです。努力を認めてあげれば、失敗も成功につながるのです。
その見通しを持って子どもの心に対応できるかどうかで、子どもの生きやすさがまるっきり変わってきます。シチュエーションは違っても、Aくんのような子は正直なところ珍しくありません。それに、それは子どもだけではありません。大人でも同様のことが起こります。
ぜひ参考にしてみてください。
だいじょうぶ。
まあ、なんとかなりますよ。
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