子どもの「生きる」を考える
子どもの「生きる」を考える
小児科医・作家
一般社団法人Yukuri-te
代表理事 
湯浅正太
みんなとおなじくできないよ

インクルーシブな社会を実現できていない大人がインクルーシブな教育を実現できるか

2022/06/04

記事【インクルーシブな社会を実現できていない大人がインクルーシブな教育を実現できるか】

このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。

【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」を Amazonで見てみる

#インクルーシブな社会を実現できていない大人がインクルーシブな教育を実現できるか #子育て #小児科医 #湯浅正太

こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。

昨日もお話ししましたが、今は学会に参加するために群馬県に来ています。今、このvoicyの収録を群馬県のホテルで行っているのですね。これまでは学会にオンラインで参加することが多かったのですが、今回は現地参加しています。もちろんコロナウィルスへの感染対策をしたうえでですが、直接情報交換をできる場が少しずつ戻ってきてくれてありがたい限りです。

それに今日は、群馬県にいる親戚のおじさんやおばさんにも会えて、嬉しい日でした。僕も、おじさんやおばさんも、当たり前ですが、歳をとって見た目が少しずつ老いていくのですね。でも、会って蘇る記憶は、ずっと前の少年時代の頃の記憶です。お正月やお盆には親戚でワイワイ集まって、おじさんもおばさんも笑って話してくれていた頃を思い出すのですね。よかったなあ、なんて。そういった楽しい経験を、今の子どもたちにも味合わせてあげたいと思いますよね。

それでは、早速コメントをご紹介したいと思います。

ラジオネームいまちゃんさん。いつもコメントを送っていただきありがとうございます。

「こんばんは。今日の新聞に、特別支援教育めぐり時間制限『共に学ぶ』後退に懸念、というタイトルがありました。4月27日付で文科省が教育委員会に出した通知は『週の授業時間の半分以上を目安に、支援学級で授業を行う』とし、通常クラスでの授業を半分以下にするように求めた、とありました。障害者団体の議長補佐の方が話すには、インクルーシブ教育の理念に反し、特に通級指導が対象外である知的障害の子どもへの影響が大きいと批判しているとのことです。知的障害があれば、小中学校の特別支援学級に行くことは、つながりが狭まると言うことでしょうか。特別支援学校がより良くなるという見方が正しいのでしょうか。考えさせられる内容です。」

いまちゃんさん、コメントどうもありがとうございます。いまちゃんさんのコメントは、令和 4年4月27日に文 部 科 学 省 初 等 中 等 教 育 局 長から出された通知のことですね。全国の教育委員会や、附属学校を置く各国公立大学法人に出された通知ですね。「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」という通知です。

僕は、この通知については、賛成のところもあり、賛成しかねるところもある、という意見です。おそらくこの通知が出た背景には、現在の支援教育に対する色々な課題の報告があって、そのうえで様々な意見が出たものをまとめたと理解しています。みんなが納得するものを提出するのは難しいですね。

ただ、今回の文科省の通知を実現するにも、インクルーシブ教育を達成するにも、教職員の働き方改革による教職員の心の余裕を生み出さなければ、良い形は実現できないと思っています。そのことは、昔からずーっとそう思っていますし、そう言っています。

そしてそれは、今が少子化へ突き進む過渡期だからこそ、教員の増加に一歩踏み込めない状況が生じるのかもしれないと思っています。これから日本社会は少子化がどんどん進みます。教育現場で教職員ひとりがみる子どもたちの割合は、明らかに減っていきます。

子どもの数が減っていくということは、今後教職員の数が変わらないとしたら、子どもに手厚く指導できる環境が生まれるかもしれない。そんな可能性も秘めています。その過渡期が、現在なのです。

今という時代に理想的なインクルーシブ教育を行おうとすると、無理です。教職員の余裕がありません。そんな、子どもたちを支援する側の余裕がないうえに、さらなる問題は、人とつながる教育が十分に提供されていないことです。

そんな教育環境で、障がいや病気を一緒に考えられる子どもが育つかというと、なかなか厳しいですね。インクルーシブ教育を充実させたいのなら、教職員の心の余裕を生み出して、人とつながる教育を子どもたちに提供する、という前提が必要です。

今回の文科省の通知内容に戻ってみますね。例えば、通知の中では特別支援学級の運用について「改善が必要な具体的な事例」として、いくつか例が挙げられているのですね。

例えば、「改善が必要な具体的な事例」の一つ目には、「・特別支援学級に在籍する児童生徒について、個々の児童生徒の状況を踏まえずに、特別支援学級では自立活動に加えて算数(数学)や国語といった教科のみを学び、それ以外は交流及び共同学習として通常の学級で学ぶといった、機械的かつ画一的な教育課程を編成している」という項目があります。

あるいはこんな項目もあります。「・ 交流及び共同学習において、通常の学級の担任のみに指導が委ねられ、必要な体制が整えられていないことにより、通常の学級及び特別支援学級の児童生徒双方にとって十分な学びが得られていない」という項目です。

このように、個々の児童生徒の状況を踏まえずに、機械的に教育課程を編成されたり、十分な学びが子どもたちに提供されないとしたら困りますよね。そうだとしたら、その点は改善してほしいと思ってしまいますね。

でも、現場では教職員の数も足りていないのが現状です。支援が必要な子ども一人ひとりが、どの程度支援を要するかも、その一人ひとりバラバラなのです。そういった個性が違う一人ひとりの子どもたちを、今の現場の限られた人数で配置されている教職員だけでうまく対処できるか、というとそうは思えないのが現状です。

ですから、文科省が改善すべきと指摘している点はもっともなのだけれど、現場は現場で疲弊していて、求められる理想と現実の乖離があると思ってしまいます。文科省の指摘しているように、個々の児童生徒の状況を踏まえて対応してもらいたいけれど、現場は疲弊しているのでいっぱいいっぱいです、というのが正直なところと感じています。

支援する立場の教職員の数が限られ疲弊している中で、「私の子どもをもっと手厚く支援してください!」と主張する保護者もいることを知っています。教職員も手一杯で時間的・体力的な余裕がないうえに、保護者からそうやって要求をされてしまう。すると、働くのが嫌になってしまいますよね。

教職員の方々は、子どもたちに良い学びを提供したいと思って教育現場に来てくれたのです。それでも、様々な余裕がない中で、子どもたちの支援を考えなくてはいけない。やりたくても、やれない。それが現実なのだと思います。ですからやはり、個々の児童生徒の状況を踏まえて対応するために、まずは教員の心の余裕を生み出す施策が必要と思います。

例えば、「改善が必要な具体的な事例」についてほかには、

「・ 通常の学級、通常の学級における指導と通級による指導を組み合わせた指導、特別支援学級、特別支援学校という学びの場の選択肢を、本人及び保護者に説明していない」という項目があります。

「学びの場の選択肢を、本人及び保護者に説明していない」としたら、困りますね。本人や保護者が学ぶ環境をある程度選択できるべきですよね。「どんな子どもに育てたいのか」、そういった保護者の気持ちがある程度尊重されるべきと思っています。

でも、教育現場を覗くと、確かにその教育現場の方々の中には「こうでなければならない」という考えの方も実際にいらっしゃいます。そういう現場を目の当たりにすると、保護者の気持ちを尊重してほしいと思うこともあるのです。

子どもを支援する立場の大人にも、色々な人がいます。とても穏やかで柔軟な思考をお持ちの方もいれば、ガチガチに固い思考をもっている方も実際にいます。教育委員会のメンバーも例年ある程度決まっていて、なかなか対応が変わらないという現場もあります。

こんな色々な現場を目の当たりにして思うのは、やはり「心の余裕」と「バランス」です。支援者の側に心の余裕がなければ、支援を受ける子どもたちにも心の余裕は生まれません。そして加えて、融通がきかないガチガチな支援策を立てても、柔軟性に乏しくて使い物になりません。「1か0」「あるか、なし」の教育よりも、程よく柔軟な融通がきく教育の方が、子どもたちの心の余裕は生まれやすいものです。

ですから僕は、文科省の通知が正しいとか、教育委員会の対応が正しいとかというよりも、みんな子どもたちのことを真剣に考えているのだけれど、そんな子どもたちの生きやすい社会を作ろうとするのであれば、まずは大人自身が生きやすい社会を作ったらいかがでしょうか、と思うのですね。

大人が生きやすい社会だからこそ、子どもたちはその社会で生きていこうとします。大人が笑顔で働いている姿を見て、「自分もその社会で働いてみたい」という気持ちになります。

子どもたちのインクルーシブ、みんないっしょに生きるということを実現する前に、「果たして大人は今、みんないっしょに生きることを実現できているのですか?」と問いたいですね。自分たち大人が生きやすい社会を作れないのに、子どもたちの生きやすい社会は作れませんよ。そんな風に思います。

だいじょうぶ。

これからみんなでどうにかしていきましょう。

まあ、なんとかなりますよ。

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