記事【その子らしさを一緒に考える】
#その子らしさを一緒に考える #子育て #小児科医 #湯浅正太
おはようございます。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。
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【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」を Amazonで見てみる
ラベルで人を判断する社会
今日も早速コメントをご紹介したいと思います。ラジオネーム「あかね」さん。コメント、ありがとうございます。
「湯浅先生、こんにちは。お疲れ様です。先日のNHKの視点論点、とても良かったです。保育園で仕事をさせてもらっていますが、時々、発達障がいを疑う子が出てきます。まず、いきなり言われてもなかなか親御さんたちは認めようとできない様子です。なんとか気持ちを整え、ようやく診てもらったら、医師からいきなりストレートに、「自閉症ですね」と言われて、詳しい説明もないまま一旦帰らされたとかいう話もききます。ママたちの気持ちについてや、どのように伝えて説明していけばいいのかを湯浅先生の経験からヒントをもらいたいです。」
どうもありがとうございます。障がいあるいはその子らしさへの関わり方、ということですね。これは小児科医だからあえて言えることかもしれませんが、まず、病院をあまり重視しないでください。発達の特性がある、あるいはユニークな個性のあるかもしれないお子さんがいたとして、その子を連れて病院を受診してもらおうとしなくても大丈夫ということです。必要があれば、いつか受診されます。
僕はあまり病院を重視していません。それよりも何よりも大切なことは、親御さんとつながることです。親御さんという立場の一人の人とつながるということです。困ったことや不安なことをお互いに話しながら、安心したつながりをもつことです。すべてはそこから始まると思っています。そんな安心したつながりの中で、「その子らしさ」を一緒に考えるというスタンスを大切にしていただきたいと思います。
このお話をするにあたっては、NHKの番組でもお話しさせていただいた、障がいの捉え方の見直しがとても大切ですね。NHKの番組では、こんなことをお話しさせていただきました。ある人に障がいがあったとしたら、障がいという名前はその人の周りに立っている旗のようなものです。その障がい名だけ見ていても、その旗に隠れて、その人のことは見えてきません。その人を理解しようとすると、その旗をどけて、その人につながろうとしなければわからないのです。その人に会って話しをしなければ、その人のことはわかりません。その人の良さも分かるはずもありません。人とつながることの価値が十分に教育されていない社会では、人とつながらなければ相手のことがわからない、という当たり前のことを理解できない人が育ってしまいます。すると、相手とつながらずに、何かのラベルで判断できると思ってしまう。それが、今の社会です。
人としっかりつながることなく、何かのラベルで判断しようとしてしまう。それは、もはや社会的習慣病です。僕はこの社会的習慣病の撲滅キャンペーンをやっているようなものです。例えば、障がいというラベル。例えば、患者というラベル、医者というラベル。そんな色々なラベルで、その人のことを判断できると思ってしまう。それが今の社会です。もちろん、ラベルは便利です。「こんな傾向があるのかもしれない」「こんな手助けが必要かもしれない」、そんな風に気づきやすくなるかもしれません。でも、便利であることと、それが真実を表しているかはまた別の話です。
障がいというラベルでは、その人のことはわかりません。その人がどんな性格で、どんな優しさがあって、どんな癖があるのか。それはわからないのです。つまり、ラベルではその人の本当の価値が全然見えてこないということです。意識しながら考えると、当たり前と思うかもしれません。でも、意識せずに暮らしていると、ラベルで人を判断してしまうことがある世の中なのです。人とつながることの価値を理解できない社会では、「障がいでその人を判断できる」と思ってしまう。
すると、障がいのある子どもの親御さんたちには不安が生まれます。障がいで子どもが誤って判断されてしまう、そんな強い抵抗を感じてしまう。障がいのある子どもを支援する人たちの中にも、障がいということで、その子のことが分かったと勘違いしてしまうこともある。でも、違いますよね。障がいによって、その子自身のことはわかりません。あくまで障がいという名前は、その子が困った時に支援しやすくなるものであればいい。しかもその支援も、厚かましい支援ではなく、その子にとって自然に寄り添ってくれるような支援です。障がいということは置いておいて、その子らしさを大切にするために一緒に考えましょう、という支援がいいですね。
僕も、少年だった頃から障がいを身近に感じて育ちました。その人としっかりつながりもせずに、一方的な解釈をする社会に違和感を抱いたものです。あるいは、障がいという言葉に振り回されてしまう大人も感じてきました。つながりが重視されない社会では、障がいのある人も、その支援者も、様々な人が障がいという言葉に振り回されてしまいます。それが、つながりを重視できない社会の現実です。つながりの価値を理解できていない今の社会には、人を理解するということが十分にできません。だからこそ、障がいのある子どもをもつ親御さんに不安が生まれるわけです。「この子を障がいで判断してもらいたくない」、そんな不安が生まれます。
その不安は、つながりをしっかり理解できる社会であれば、不要なはずです。だって、つながって初めてその人のことを理解できるとわかっていれば、障がいというラベルで人を判断することはないからです。そういった健全な「障がい」の捉え方を、今の社会ではできないのです。
どんな立場の人であっても、つながる力が大切
患者というラベル、医師というラベルも同じです。患者さんにも様々な人がいます。人とつながることが上手な人もいれば、人とつながることが苦手な人もいます。医師も同じです。医師の中にも、自分自身が患者さんという立場になることもあります。そうすると、患者さんだから、医師だから、というラベルで判断することでは、正しい関係づくりはできないことがわかります。患者さんも、医師も、当たり前ですが人間です。それぞれ違った個性をもった人間です。
そうであれば、患者さんだから、医師だから、といってラベルで判断できないことが理解できます。理解できるはずです、つながりが意識できていれば。その人とつながらなければ、結局その人のことはわからない。そのことが理解される世の中であってくれたらいいのになあ、と思います。
少し脱線しますが、医師という集団には、つながりを育てられない社会の特徴が現れているとは理解しています。つながりに価値を置いた教育ではなくて、テストの点数や偏差値を重視した教育の中で行われた試験を突破してきた集団が、医師という集団かもしれません。
僕も医師として働く中で、色々な医師に会ってきました。中には「なんでそんな発言をしてしまうのかなあ」「どうして相手の気持ちに寄り添えないのかなあ」「どうしてそんなあっさりと人の感情を扱ってしまうのかなあ」と思う医師もいました。その度に、これが今の教育の結果なのだろうと思うものです。
ただ一方で、人の気持ちに寄り添えない医師に優しさがないかというと、それは違います。ぎこちない態度で患者さんに接する医師であっても、直接話して一緒に何かを行動する時には「なんだ、優しいところあるじゃない」なんて思うものです。つまり、問題はやはりつながる力と思います。せっかく優しい心があっても、つながらなければやはりそのことはわからないのです。
それに、「あの医者は〜」とクレームを言う患者さんにも会うことがありますが、そう言う人に限って、他の人ともうまく関係を築けていないことも少なくありません。つまり、患者さんという立場であっても、やはりつながる力が育っていないことを理解するわけです。
僕自身、医師以外にも、患者さんという立場になることがあります。そのどちらの立場であっても、相手を尊重するということは大切にしたいと思っています。それが、人として生きやすい生き方につながると思っています。結局つながることで、あらゆる問題が解決されるということです。そんなことを考える度に、人としっかりつながることなく、何かのラベルで判断しようとしてしまう、その社会的習慣病が治ったらいいのになあ、と思います。
そういった理解を前提に、少し現実的な話をしたいと思います。社会の中で障がいにアプローチするうえで大切にしていただきたいのは、「社会的なタイムラインを意識すること」と「安心したつながりをつくること」です。
人は社会の中で生きることを決めた生き物です。人の人生と社会とは、切っても切り離せないものです。それは、子どもも同じです。例えば、小学校入学に向けて学校での生活環境を調整するためには、タイムラインを意識して、その前の年の秋頃までに行っておきたいことが2つあります。
一つ目は、その子どもの特徴を理解するということです。落ち着きがない、人と接することに過度な不安を覚える、物事を覚えたり理解したりするのが苦手。そんな子どもの特徴を理解しておきたいものです。障がいということは置いておいて、その子の特徴を理解したいものです。
二つ目は、その特徴を理解したうえで、どんな学校環境で生活させてあげたいか、という意見を決めるということです。学校での生活環境を利用しようとすると、具体的には、その環境の選択肢は大きく分けて3つあります。一般的な学校の普通学級、あるいはその学校の支援学級、そして特別支援学校の3つです。そのどの環境で生活させてあげたいのかについて意見を決めるということです。
そういった、子どもの特徴への理解と、子どもに経験させてあげたい学校環境への意見を、小学校に入学する前年の秋までに整理しておきたいものです。そういった情報をもとに、親御さんと教育委員会の方との話し合いが行われて、入学前年の秋頃に会議を通して子どもの学校環境が決定されていきます。
ですから、社会の各ステージのタイムラインを意識したうえで、どの時期までにどんな準備をしておくべきかということを理解しておくことが大切ですね。そういったタイムラインが意識できると、親御さんたちと見通しをもった関わりができます。
以前の放送でもお話ししましたが、見通しは人の心に余裕を生みます。つまり見通しをもてている自分には心の余裕が生まれる。心の余裕が生まれている自分に接する相手にも、心の余裕が生まれます。それは、心の鏡の法則でした。心の余裕を用意することで、健全なつながりを築きやすくなるのです。そうやって見通しをもちながら、心の余裕も用意しながら、親御さんとつながってください。
安心できるつながりから調整が始まる
そういったつながりをつくりながら、お子さんの「その子らしさ」を親御さんと一緒に考えてもらえればと思います。「その子らしさ」を考える場面では、不安も生まれるのが当然です。どうしても周りの子どもと比べて、自分の子どものできない部分に注目して不安を抱くものです。だからこそ、親御さんとつながってください。
色々な話をしながらつながる中で、信頼感が生まれます。不安があっても、信頼のあるつながりをもとに、病院へ行ってみたり、市役所に行ってみたり、少しずつ親御さんは行動されます。「病院を受診してもらおう」と思わなくて結構です。最も大切なのは、親御さんとの安心できるつながりです。
親御さんは、安心できる場所があるからこそ、色々なところにいけるようになります。これって、どこかで聞いたことありませんか。僕はこれまでの放送で、似たようなことを話したことがあります。それは、子どもは家庭の中に親という安心な場所が確保されていれば、幼稚園や保育園、学校という色々な場所で頑張っていける、ということです。結局、人は誰かとつながれて安心な場所が確保できているからこそ、色々な挑戦ができるということです。
病院を受診するということには、不安が生じます。「なんて診断されるのだろう」、そんな不安がつきものです。だからこそ、そんな不安が生まれるかもしれない場所へ行くためには、安心できる場所、安心できるつながりが必要です。ぜひ、保育園、幼稚園の先生と親御さんとの間で、安心できるつながりをつくってください。それが最も大切です。
幼稚園や保育園やそのほかの場所に、親御さんが安心できる場所があるからこそ、病院へ行ってみようかな、市役所に行ってみようかな、子どもの環境を調整してみようかな、そんな行動を親御さんはとりやすくなります。そうやって親御さんがお子さんの発達への支援について調整をしようと思った時に大切なものが、先ほどの社会的なタイムラインへの意識なのです。またそこに戻ります。
社会にはどうしても手続きのお作法というものがあります。この時期までに調整しなければ、来年度の学校環境を調整しにくくなってしまうという期限があるものです。それを理解せずに、闇雲に支援していると、環境調整が手遅れになるばかりでなく、環境調整の中で親御さんの心が取り残されてしまう状況も生みかねません。
大切なものは、親御さんの心を尊重したお子さんの環境調整です。親御さんがお子さんにどんな教育を受けさせてあげたいと思っているのか。どんな子どもに育ってもらいたいと考えているのか。それを尊重することが、子どもの環境を調整するうえでとても大切。支援者が良かれと思った行為も、親御さんにとっては「おせっかい」であることもあります。厚かましい支援は避けたいものです。
このように、「社会的なタイムラインを意識すること」と「安心したつながりをつくること」、ぜひ大切にしてみてください。そして、色々なお子さんたちを診させていただく中で思うのは、障がいがどうであれ、「その子らしさ」という視点が大切と思っています。つまり、極端な話をすると、障がいの名前はどうでもいい、ということです。
「その子らしさ」として、どんなものがあって、どんな関わりを大切にしたいか。少し歩くのが苦手だから、歩く時の関わりを大切にしたいのか。覚えるのが苦手だから、ゆっくりマイペースに学習に取り組める関わりを大切にしたいか。社会的なタイムラインを意識しながら、安心したつながりをつくって、その子らしさを一緒に考える。そういった、親御さんが安心できるつながりができれば、そこから一つずつ調整が始まります。
色々ありますが、だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。
記事のポイント!
- ラベルで判断しようとする社会がある
- どんな立場でもつながる力が大切
- 安心できる関係づくりから支援が始まる
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