記事【つながりの力を信じて登校するようになった子の話】
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こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。
今日は、つながりの力を信じて登校するようになった子の話、についてお話ししたいと思います。
このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。
【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる
不登校は珍しくない
今世の中では不登校の子どもが増えています。生きづらさを抱えて、不安が増えて、どうしても学校という場所に行けない子どもたちです。不登校という子どもたちにも、色々なパターンがあります。学校には行けないけれど、外で友達とは遊べる子ども。学校にも、外にも行きたがらない子ども。そんな風に色々です。
そんな不登校の子どもたちにとって、僕が最も必要だと思っていることは、家庭の中でのつながりをつくることです。親子のつながりを感じてもらい、生活における様々な不安を乗り越えてもらう。そういった、不安が家庭でのつながりで解消されていく経験を積み重ねて、基礎的なつながる力を養います。そして、家庭の中でつながれる安心感を確保しながら、社会で色々な人とのつながりを経験する。
このように、家庭でつながり、少しずつ社会でつながる。そのプロセスを大切にしています。そういったプロセスを大切にしながら、外の社会に触れ合う機会として、学校に通うことも検討します。
ここで、学校への登校の捉え方を確認したいと思います。僕は、学校に子どもをしっかり支える環境があるのであれば、その学校に通うことを目指したいと思っています。でも、もしも学校に解決できていないいじめがあったり、不適切な指導があるなら、その学校へ通うことを目指しません。不適切な環境であれば、他の交流の場を目指すことで良いと思っています。つまり、子どもたちの心の成長にとって、健全な場所であれば子どもたちに利用してもらいたいが、もしも不適切な対応がある場所ならば利用しても意味がない、ということです。これは大切な視点です。学校に通わないと行けない、というのはある種大人のエゴとも言えるかもしれません。
ただ、注意したいのは、僕は学校に通わなくていいと言っているにではない、ということです。やはり学校は友だちや先生との交流ができる場所です。様々な学習の機会も得られます。その環境には、子どもが社会で生きるうえで大切な経験がしっかり詰まっているのです。ですから、学校に健全な触れ合いや適切な指導があるのであれば、学校という場所を利用したいのです。
そのことを理解したうえで、それでも学校を目指さなくてもよい場合もある、ということです。それは、先ほどの解決できていないいじめや不適切な指導がある場合です。そういったものがある環境では、健全な触れ合いの経験や有効な学習はできません。ですから、いじめや不適切な指導がしっかり改善された状態でなければ、ただ学校に通わせることのメリットがなくなってしまうのです。
子どもたちの人生を考えた時、最も子どもたちに獲得してもらいたいものは、つながる力です。社会で生きるうえで、どんな能力を生かすにも、つながる力が必要です。そして人が抱えて当たり前の不安を、誰かとつながることで解消していきます。さらに、人とつながりながら、自分という存在を確かめていくのです。つながる力は人が生きるうえでの基礎力とも言えるかもしれません。子どもたちが不登校になっている時、そこには明らかに不安が存在します。その不安を解消するには、やはりつながりが必要。そのつながりの中でも最も大切なものが、親とのつながりです。
両親ともに協力する、ということ
先日、僕の外来に通ってくださっている不登校だったお子さんの親御さんと話していたら、こんなことを教えてくれました。その子のことをAくんと呼びましょう。そのAくんについてお母さんが、「あの子、この4月から学校に通うようになりました」というのです。そして、親御さん自身が「これまで辛抱強く頑張ってきてよかったです」と言ってくれていました。
しかも、実は僕の外来に通院してくれている子どもたちの中で、この4月に学校に通い始めた子どもは1人ではありません。複数人います。そこには、新しい学年に変わるという、生活環境の変化の後押しもあります。でも、最も威力を発揮しているのは、やはりつながりです。
もちろん薬を処方することはあります。過度な不安を取り除いたり、注意がそれやすい気持ちを整えるために薬を処方することがあります。Aくんも薬を処方していました。でも、薬だけでは決して良くなりません。心の状態をコントロールするために薬の力もちょっと利用しながら、でも最も効果があると理解しているのは、やはりつながりです。
色々な波があるけれど、辛抱強くつながりを意識しながら関わり続ける中で、ある時ふと子どもに勇気が生まれる。そんなことが珍しくありません。子どもの心の成長は、なだらかな坂ではありません。階段のようです。これまでできなかったことが、突然ふとできるようになります。不登校における心の成長も同じです。ある時ふと「学校に行ってみる」になります。そんなものです。
しかも、こういった登校するようになった子どもたちの背景に必ず存在するものは、お母さんとお父さんがともに協力するという姿勢です。両親がともに協力して子どもとのつながりを意識することが、絶大な威力を発揮します。家庭の中での方針がしっかり定まっていてブレが少ないため、子どもへの効果がやはり現れやすい、ということです。それは、Aくんの家庭もそうでした。親御さんたちが協力して、外出の機会をつくってくれました。挨拶なども工夫してくれました。
もちろん親御さんたちが子どもとのつながりを意識して、すぐに登校できるようになるわけではありません。途中、挫けそうな時期もありましたが、それでも諦めずに辛抱強くつながり続けてくれました。おそらくAくんも感じたと思います。「どんなことがあっても、僕を信じてくれている」、そうやって感じてくれたはずです。そうやって、子どもとのつながりを意識しながら、辛抱強く子どもに関わることで、ある時子どもにふと勇気が生まれる。そんなものです。
大人を信じられる、ということ
そして、そのAくんのことで触れたい点がもう一つあります。その時の外来ではAくんは学校に登校できていたので、お母さんだけが外来に来てくれていたのですね。するとお母さんから、「あの子、学校に行っているので、今日この外来に来れなかったですけど、こんなことを言っていました。『先生に、俺頑張っているから、って言っておいて』って言っていました」と教えてくれたのです。
『俺頑張っているから、って言っておいて』だそうです。その言葉に感じるのは、僕や周りの大人への信頼です。そこに、その子が僕とつながれているということがよくわかります。初めて外来に来てくれた時には、目も合わせてくれなくて、大人を信用しない様子があったAくんが、親や僕や周りの人とつながりながら、成長したことがよくわかります。他人を信じれるようになったから、『先生に、俺頑張っているから、って言っておいて』と言える。そのことが確認できただけでも十分です。
これからも色々な波があるかもしれませんが、それはそういうものです。つながりさえ保たれていれば、どうにかなります。その親御さんは、「親にも欲が出て、もっとこんなことができるんじゃないかと思ってしまいます」と教えてくれました。そんな親御さんに僕は、「しばらくは現状を維持することだけでよし、という感覚をもっていただきたい」とお伝えしました。継続は力なりと言いますが、同じことを続けるだけでも相当のエネルギーが必要です。今の現状を続けるだけでも、お子さんはとても頑張っているということです。そんな風に色々思うところがあります。
だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。
記事のポイント!
- つながりで不登校は乗り越えられる
- 不登校を乗り越えるために必要な親同士の協力
- 子どもに大人を信じてもらえるように
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