子どもの「生きる」を考える
子どもの「生きる」を考える
小児科医・作家
一般社団法人Yukuri-te
代表理事 
湯浅正太
みんなとおなじくできないよ

連休だから考えるスマホの使い方

2022/05/02
#連休だから考えるスマホの使い方 #連休だからすること #子育て #小児科医 #湯浅正太

記事【連休だから考えるスマホの使い方】

こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。

今日は、連休だから考えるスマホの使い方というテーマでお話ししたいと思います。

このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。

【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる

物事を捉える時に

一昨日はアフォーダンスについてご紹介しました。それは、環境が人の行動を生み出す、という捉え方だったですね。そんなアフォーダンスについて、ラジオネームひのきさんからコメントをいただいています。

「子どもに『だめだよ、危ない』とよく言ってしまい、これは環境を整えたら解決すると思うことが8、9割とつくづく思うこの頃です。環境を整えたとしても、想像を超えてくることも織り込み済みで、余裕ある親でありたいですが、私もそこに山があったら登ってしまいます。アフォーダンス、勉強になります」。

ひのきさん、いつもコメントありがとうございます。その環境がなければ、子どももそんな行動をとらない、ということは意外と多いものですよね。そこにその環境があるから、親が子どもに注意しなくてはならない。アフォーダンスの考え方を考慮すると、親の負担も軽減するかもしれません。

ただもちろん、その時の放送でもお話ししましたが、この考えが正解というわけではなく、アフォーダンスの考えも取り入れながら、柔軟な視点で子どもの行動を見守ってあげたいところです。それは、アフォーダンスを取り入れたつもりでいても、逆に窮屈な生活になってしまうこともあるからです。

例えば、小児科外来の待合室を思い浮かべてみてください。その待合室に絵本があったとします。ある時、外来を受診した親子が待合室に用意されていた絵本をとって読んでいました。そこに、別の子どもがやってきて、その親子が読んでいたその絵本が欲しくなり、その絵本を取ろうととしてしまいます。そこから子ども同士の喧嘩が始まり、医療者が呼ばれます。

外来でのそんなことをきっかけに、「そこに絵本があるから、外来を受診した子どもたちは喧嘩をした」と捉えて、「外来に絵本を置かないようにしよう」と決めてしまったとします。どうでしょう。あなたなら、この医療者の判断をどんな風に捉えますか?

「子どもたちが外来に来て絵本の取り合いをしてしまうこともあるから、外来に絵本を置かないようにしたのは正解」と考えますか。それとも、「いやいや、それはやりすぎでしょ。他の人が読んでいる絵本をとろうとした、その子のしつけを工夫すればいい」と考えますか。

アフォーダンスの考え方を利用する時に注意したい点は、環境が人の行動を生み出す、だからその環境をなくそう、ということではない点です。環境が人の行動を生み出すから、そのことも考慮して物事を捉えていこうということです。

どんな「中間」でいくか

そして、それに加えて大切なのは、物事を「0」か「1」、「ある」か「なし」で捉えない、ということです。子どもの頃に学んだ多くの問題には、「ある」か「なし」を答えるものが多くありました。でも実際の社会生活では、「ある」か「なし」よりも、その中間を選ぶことでうまくいく事柄が多いのです。どれも少しずつあって、そんな中でバランスを考えながら対応する。そんなことの方が多い。

例えば、ダイエットをするにも、「これまでの好きな食べ物を完全に『なし』にしましょう」というよりも、「少しずつ除去していきましょう」の方が無難かもしれません。これまでタバコを吸っていた人に、「今日からタバコをまったく吸わないようにしましょう」というよりも、「少しずつタバコを吸う回数を減らしていきましょう」の方がうまくいくかもしれません。

世の中で起きている物事に関して、「0」にしたくても、「0」には出来ないものが多いものです。いきなり「0」を求めてしまうと、ストレスが溜まってしまいます。人は皆ストイックかというと、そういうわけではありません。人の心を考えると、やはり少しずつ調整する方が無難かもしれません。それは、子どもも同じです。

「0」か「1」ではなくて、その中間が存在するからこそ、物事の調整がうまくいくものです。この、物事の中間を探って、いいバランスで対処することを「頭の柔らかさ」と表現するのかもしれません。子どもたちの性格だけではなく、その生活環境も考慮して、「じゃあ、どんなバランスで対処しようか」という視点です。

どんな「中間」でいくか。とても大切ですね。

親の覚悟

ではここで、ラジオネームみほさんのエピソードをご紹介したいと思います。

「学校を休みスマホばかり触っている娘を見て、夫はスマホを取り上げるべきだと言います。私は甘やかし、娘の事をコントロール出来ずにいると・・。その通りかもしれませんが、取り上げたら娘が荒れるのが目に見えています。それにコミュニケーションが苦手な娘は、ラインでは友達とつながってます。アプリを使って絵を描いたり音楽を作って楽しんでいます。勉強だって検索すれば解き方を教えてくれます。学校に行くより遥かに楽しく、楽なのです。それでも時々は外の世界に出ていこうとする娘。少しずつでも、人とのつながりを経験させたいです」。

みほさん、いつもコメントありがとうございます。時間が余っている時ほど、子どもあるいは大人も手持ち無沙汰になり、スマホをいじりたくなるものです。明日から連休がありますが、そんな連休中にはそんな気持ちが湧きやすくなるかもしれません。

このエピソードには、先ほどのお話のように「0か1」ではなく、「どんな『中間』でいくか」が大切ですね。家族みんなの協力のもと、その中間を目指すというのが現実的かもしれません。実は、この「スマホを取り上げるかどうか」というお話は珍しくありません。外来でもこのお話をしょっちゅうします。全国の親御さんが抱える問題ではないでしょうか。

実は「0」にするという事ができる場合もあります。つまり、スマホを完全に使用しない生活を実現できる方法があります。それは、最初からスマホを与えない場合か、あるいはスマホを使っているその生活環境をガラリと変えられる場合です。ここでは、最初からスマホを与えない場合のお話しではなく、スマホを使うようになって、その後にその生活環境をガラリと変えられる場合のお話をしたいと思います。

実は、今の生活ではなくて、別世界の環境で過ごす覚悟がある場合には、スマホを使用しないという選択でうまくいくこともあります。例えば、病院に入院するということです。今は、ゲーム依存症の子どもたちが増えています。中には、その状況がエスカレートしてしまい生活が成り立たなくなる子どももいます。その場合は、ゲームの使用をいっさいやめて入院する、という選択をする場合もあります。

すると、病院に入院中の生活はうまくいきます。でも・・です。病院に入院した時には環境が変わっても、お家の環境が変わっていなければ、お家に帰ってきた時にまた元の生活に戻ってしまいます。病院では医療者全員が協力しています。だから、スマホを使わないという対策が有効に働きます。そうであれば、家庭でも家族全員の協力が必要なのです。

今の時代には世の中にスマホが溢れているため、スマホを無くした生活がなかなか出来ません。外出すると、どこかで必ずスマホを使っている人がいます。同い年の子どもがスマホを使っている姿を見るかもしれません。自分が接する人たちに「ここではスマホを使用しない」という共通理解がないと、子どもはついついスマホに手が伸びてしまいます。

子どものスマホの問題については、やはり親の覚悟が必要です。既にスマホによる楽しみ方を知っている子どもに対して、子どもだけ制限を設ける場合、子どもの納得も必要です。親がスマホを使っているのに、子どもだけスマホを使ってはいけないということはなかなか通用しません。だからこそ、スマホを取り上げるには親の覚悟が必要です。子ども同様、親もスマホを使わない。それが必要です。

まずは大人から

以前の放送でもお話ししましたが、僕が中学生の頃、学校の先生たちが生徒に「子どもはタバコを吸ってはダメだぞ!」と言っている姿がありました。でもそんな先生が喫煙室でタバコを吸っていたら、どうでしょう。大人がタバコを吸っていたのでは、やはり子どもは納得しないのです。「なんで大人は良くて、子どもはダメなんだ?」という思考にはまってしまいます。

例えば、新型コロナウィルスに対するワクチンです。ワクチンによって発熱などの副反応が出るかもしれません。でも今の世の中で経済活動を再開し社会が機能していくには、ワクチンで新型コロナウィルスによる重症化を防ぐことは必要です。そんなワクチンを普及させるためには、その必要性を感じている人が自ら進んでワクチンを接種することが大切なのです。

医療者が進んでワクチンを接種する。自分でも副反応を経験する。そういう行動をとって初めて、「ワクチンを接種してください。そうやって予防をしていかないと、社会は機能しません。医療もひっぱくしてしまいます」と訴えることに効果が現れます。自分たちで進んでワクチンを接種するからこそ、心の底からこのコロナ禍をどうにかしたいという気持ちが社会に届くのだと思います。そういうものです。

「大人もスマホの使用を調整するから、子どももスマホの使い方を一緒に考えて欲しいんだ」。そんな姿勢がやっぱり大切ですよね。「スマホを取り上げるべきだ」と言いお父さんがいれば、そのお父さんからスマホの使用をやめてみるのがいいと思います。やっぱり、何事も大人から始めてみるのがいいかもしれません。

そんな風に色々思うところがあります。だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。

記事のポイント!

  • 0か1かはでなく、「中間」で
  • まずは大人からやってみる
  • 親の覚悟があれば、子どもは変わる

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