記事【アフォーダンスから考える登校しぶり】
こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。
今日は、アフォーダンスから考える登校しぶり、についてお話ししたいと思います。
このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。
【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる
アフォーダンスから子どもの行動を考える
あなたは、「アフォーダンス(affordance)」という言葉を知っていますか?「アホなダンス」ではありません。アフォーダンス(affordance)です。
米国の心理学者ジェームズ・ギブソン(James Gibson)が提唱した概念で、簡単にいうと、環境が人の行動を生み出す、ということです。
例えば、ドアの取手です。あなたは、ドアの取手を見ると、それに手をかけてドアを開けようとします。それは、そのドアの取手があなたにそうさせている、ということです。例えば、椅子です。あなたは、椅子があれば、そこに座ろうとします。それは、その椅子があなたに座るようにさせている、ということです。
アフォーダンス(affordance)のアフォード(afford)とは、「与える」という意味です。ギブソンがつくったアフォーダンス(affordance)は造語ですが、環境が人に行動を与えているということを意味します。
椅子であれば、人に座るという行動を与える。ペンであれば、人に書くという行動を与える。コップであれば、そこに水を注ぐという行動を与える。そうやって、そこにある環境が、私たちにある行動を与えているということです。
例えば、小児科外来の診察室にクルクル回る椅子があったとします。そんな診察室にくる子どもたちの中には、その椅子をクルクル回して遊ぶ子どもも多いものです。そしてそんな椅子がある診察室では、「コラッ、椅子を回して遊ばない!」と注意を受ける子どももいるのです。
アフォーダンスの考え方で捉えると、その診察室にクルクル回る椅子があるから、その椅子が子どもに「椅子をクルクル回す」という行動を与えている、ということになります。そういう捉え方をすると、そもそも、そんなクルクル回る椅子を好奇心旺盛な子どもが受診する診察室に置かなければいい、ということになります。
この考え方が正解というのではなく、この考え方をもっておくことで、子どもの行動をあらゆる視点から捉えて工夫することができるため大切ということです。
中には、「いやいや、子どもが椅子を回さないように、しっかり指導しておけばいい」、そんな考え方もあります。確かに、その場の空気を読んで、「この診察室は、椅子をクルクル回してはいけない場所」としっかり認識して座ってもらえたら、とても楽かもしれません。
でも・・です。相手は、まだ発達の過程にある子どもです。そんな、相手の心を読む力を育てている途中の子どもであれば、その場の空気を読めないこともある。
公園や遊園地に遊具としてクルクル回る椅子が用意されていれば、その椅子をクルクル回しても怒られることはないでしょう。でも、たまたま診察室という、大人しくしておいてもらいたい場所だったから、椅子をクルクル回してしまうことを叱られてしまうのです。それぞれの場の違いをまだしっかり理解できずに悪気がない中で、椅子をクルクル回してしまうこともあります。
子どもならどうしてもやってしまうでしょ、ということがある程度わかっているなら、そもそも子どもが利用する診察室にクルクル回る椅子を用意しなければいい、あるいは、その椅子自体を回しにくくするという方法もあるでしょう。そうすれば、「椅子をクルクル回してみたい」という好奇心を掻き立てられる子どももいなくなると思います。
このように、周りの環境が子どもの行動をつくってしまっている、という考え方をもてるかどうか。子どもにばかり原因を追求するのではなく、子どもの行動を生み出す原因を周りの環境に求める。その姿勢があれば、親あるいは大人の心はもっと穏やかになるかもしれません。そんな姿勢があれば、子どもたちはもっと生きやすくなるかもしれません。
登校しぶりを解決するには
実は今日、登校しぶりに関する面白いお話を患者さんのご家族からうかがいました。もしかすると、その子の親御さんもこの放送を聞いてくれているかもしれません。ちょっとご紹介させていただきますね。
その子は小学校に入学してから、学校に行きたがらない日があったそうです。感染症にかかったわけではなく、学校に行きたくなくて登校しなかったということです。そして学校を休んだある日、お家にいるだけというのもどうかと思って、その子を外に連れ出したのだそうです。お家の中にいたら、ゲームもやってしまいます。テレビも観れるかもしれません。そりゃ、外に連れ出して、外の空気に触れることは大切なことと思いますよね。
でも、そのことを学校の先生に伝えたら、「学校を休んだ日は、外に連れていくのをやめてください」と言われたそうです。その理由は、学校に行かないのに外で楽しく生活してしまったら、ますます学校に来なくなるので、外へは連れて行かないでください、ということだそうです。
「学校に登校しない日は、外にも行かない」「学校に行かないなら、つまらないお家で生活する」。学校の先生は、そんな決まりをつくりたいようです。そのお話を聞いて、僕がどう思ったか。それは、これからの時代には通用しない指導だろうと思いました。
これだけSNSやゲームが普及している今の世の中では、「お家にいること」=『しんどいこと」にはなり得ない。それに、仮に最初はお家にいることがしんどかったとしても、子どもは「楽」「楽しい」を見つける天才です。きっとお家にいることに「楽」「楽しい」を見つけ出します。そして少しずつ、その「お家にいること」から抜け出すことができなくなります。
では、お家に「楽」「楽しい」を作らなければいい、という意見もあるかもしれません。お家にいても、ゲームをさせない環境にすればいい。お家にいても、テレビも観させない環境にすればいい。そういう意見もあると思います。でも、そういう社会ではなくなってきているのです。
冒頭でお話ししたように、アフォーダンスの考え方で考えてみましょう。今の世の中はSNSやゲームで溢れています。テレビのリモコンにも、YouTubeなどにつながるボタンが用意されているほどです。すぐに、色々な楽しい世界とつながれる環境になっています。そんな環境があるからこそ、子どもたちはその楽しい世界とつながるという行動をとります。そんな環境があるからこそ、学校に魅力を感じないとも言えるでしょう。環境が子どもたちの行動を生み出している、ということです。
子どもたちを取り巻く今の環境は、子どもたちを空想の楽しい世界へと導くもので溢れているのです。そこにクルクル回せる椅子があれば、子どもはその椅子をクルクル回したくなる。それと同じように、空想の楽しい世界に触れられる今の社会の環境があるからこそ、子どもは現実社会に行きたくなくなるのです。
こうやって考えると、子どもをお家に閉じ込めておくと、いずれ楽しさを求めて学校に登校する、という考えには無理があるということがわかります。そして、ゆくゆく「楽」が潜むお家から抜け出せない、ということも想像できます。
家庭とは違う外の世界を感じる
子どもにとって大切なのは、自分とは違う実世界のものを知るという体験です。空想の世界ではなく、実世界にある自分とは違うものを知る体験が欠かせません。そして、健康を維持する、成長を促すという点からも、太陽の光をあびることも大切です。太陽光を浴びることは、朝と夜の体内時計を働かせることにもつながりますし、骨の成長も促します。子どもにとって外の実世界に触れるということは、空想の世界で溢れた現代に生活するうえでとても大切なことなのです。
もちろん「学校行かないなら、外に出ちゃダメ」が有効な場合もあります。でもそれには、条件があります。例えば、子ども自身が人との交流の楽しさを知っているという条件が必要です。人と直接会って触れ合う楽しさを知っている。だからこそ、学校に行きたいのです。
他には例えば、おうちの中ではいっさいSNSやゲームなどの空想の楽しい世界に触れられないという条件も必要です。でも、今の世の中でその条件をクリアできる家庭が多いでしょうか。おそらく、少ないと思います。
今の子どもたちは、家の中にあるSNSやゲームなどの空想の世界が、学校現場よりも何十倍も何百倍も楽しいことを知っています。そんな子どもたちが生きるこれからの時代は、これまでの時代とは違った不登校対策が必要です。SNSやゲームというものに触れやすい環境を考慮した、不登校対策。それには、アフォーダンスという考え方が欠かせません。つまり、子どもたちが「楽」「楽しい」を演出しやすいものに溢れているからこそ、その環境に操られないように子どもの行動を操作する必要があります。
アフォーダンスを考慮すると、家庭という環境にもSNSやゲームというものもあり、その環境が学校に行きにくいという課題をも作り出している、と考えることができる。そうであれば、その家庭という環境に閉じ込めることが、不登校を解決する鍵にはならないことが想像できます。すると、「おうちの中に閉じ込める」という発想は、少し時代遅れということが理解いただけるかもしれません。
それよりも、家庭からちょっと離れたところにこそ、不登校を解決する鍵があると考えられるかもしれません。自然に触れさせて、命が生まれ、成長し、いつかは終わりを迎える、という命の定めを感じる機会を多く設けること。現実世界での直接的な触れ合いに居心地の悪さを感じてしまう子どもにとっては、自分の心に厚かましく踏み入れてこない、小さな生命との関わりや、ちょっとした人との触れ合いが大切かもしれません。
そうやって、アフォーダンスから、子どもたちの「学校に行きたくない」という課題をあらためて考えるのもいいのではないでしょうか。
だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。
記事のポイント!
- アフォーダンスの考えも理解したい
- 子どもではなく、環境が原因のこともある
- 子どもが触れる環境を変えることも大切
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