子どもの「生きる」を考える
子どもの「生きる」を考える
小児科医・作家
一般社団法人Yukuri-te
代表理事 
湯浅正太
みんなとおなじくできないよ

コメントから考える心を育てるために大切な視点

2022/04/29
#コメントから考える心を育てるために大切な視点 #子育て #小児科医 #湯浅正太

記事【コメントから考える心を育てるために大切な視点】

こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。

今日は、コメントをご紹介しながら、心を育てるために大切な視点を考えたいと思います。

このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。

【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる

失敗していない子育て

ではコメントをご紹介します。実名の表示かもしれないのでお名前は出さずに、仮にYさんと呼ばせていただきますね。Yさんのコメントを一部ご紹介したいと思います。

「私は昨日(このコメントを読んでいる時点からすると、一昨日)のイベントに参加させていただきました。バアバの立場です。高齢者となり、今自分の子育てを反省しております。実母が子育て失敗したと、私に言ったのが、とてもショックな時代を過ごしました。決して忘れません。今孫達が、生きづらく、その親が生きづらい時代にいる事が切ないです。」

Yさん、差し入れとコメント、どうもありがとうございます。実は、Yさんと同じようなことを教えていただくことは珍しくありません。つまり、自分の子ども時代に、親が自分に対して「あなたの子育てを失敗した」と言ってきたという経験です。子どもの頃に親からこんなことを言われてショックだった。小児科医としてたくさんの親御さんとやりとりをしていると、必ずそのようなことも教えてもらいます。

それはなぜかというと、僕が親御さんたちの子どもの頃の親子関係をうかがうことが多いからです。なぜ僕が親御さんたちに、親御さん自身が経験していた子どもの頃の親子関係をうかがうのか。それは、子育てには自分の養育体験が必ず影響するからです。自分がどんな風に育てられたかが、今の子育てに影響するのです。子育ては、世代間で連鎖していくということです。

例えば、虐待を受けて育った子どもは、大人になった時に自分の子どもにも虐待をしてしまいます。自分では虐待を受けて辛かったという思いがあっても、同じことを自分の子どもにもしてしまう。そういった現実があります。人は自分の経験を、無意識のうちに他の人に体験させてしまうものです。僕はこれまでも、「心は鏡のよう」と言っていますが、あなたが昔見た親の表情と同じ表情を、あなたは自分の子どもへ見せます。そうやって、表情や行動が次々に次の世代の子どもたちへと伝播するのです。

今回のコメントをいただいたYさんに対してお伝えしたいのは、まずあなたが育っていることに失敗はありません。人として命をつなぐということができている以上、成功していることがわかります。そして、もしも仮に子育てに失敗したのだとすると、それは子どもだったあなたのせいではありません。あなたには、あなたの親御さんとその祖先の影響の方が強く現れていたのだと思います。

そして、よくわかるのは、その言葉を子どもであるあなたに伝えなければならなかったほど、あなたの親御さんには心の余裕がなかったのだろうと思います。戦中・戦後の日本を考えると、明日を生きることに必死な時代であったと思います。自分たちの力だけではどうにもできなかった時代であったかもしれません。明日を生きられればよかった。どうにか子孫に希望をつなぎたい。そうやって生きることに必死な時代だったと思います。今よりももっと命を身近に感じた時代です。

そんな時代を、生きて命をつなぐことができたということは、やはり成功していると思います。もちろん、人には欲があります。隣の芝生は青く見えるものです。他にもっといい育て方があった。そう思うものです。でも、命をつなぐことができない人がたくさんいた時代の中で、命をつなぐことができたことを感じてほしいと思います。

そしてもしかすると、あなたの親御さんも「あなたの子育てを失敗した」ということを、実の親から言われていたかもしれません。冒頭でお話ししたように、人は自分にされたことを、他の人にもしてしまうものです。それほど、子育ての様子は世代間で連鎖します。親御さんの中に無意識の中に沸き起こる何かがあったのかもしれません。

人はそうやって過去に操られる。今を生きる人も、自分たちの祖先に操られているものです。小児科医として子どもたちの生きづらさに向き合う中で、そうやって過去とのつながりを強く感じます。命が絶たれることで、祖先とのつながりが絶たれるかというと、そういうわけでもないことを実感します。良い意味でも、悪い意味でも、あなたは祖先の影響を受けています。

Yさんの最後のコメントに、「孫達が、生きづらく、その親が生きづらい時代」という表現がありました。実は「生きづらい」と感じない時代はありません。もしも人が生きやすさばかり感じるようになると、それはもう秩序のない世界になっていると思います。自分の生きやすさばかり追求していたのでは、社会が成り立たない。だって社会を構成している人は、一人ひとり違うからです。異なる命が暮らす社会だからこそ、そこにはどうしても生きづらさが生じます。

ただ今の時代は、少しその「生きづらさ」の質が変わっています。「生と死」を実世界ではなく空想の世界で感じやすい世の中になったせいで、命をあまりにも軽く捉えてしまうようになりました。これまでは、命に重みがあったからこそ、人はその命を必死につないで、生きる希望を子孫に託しました。

でも、その命の重みを理解できなくなってしまった。すると、生きることをあまりにも容易いことと勘違いしてしまう空気が、今の社会に漂っています。命をつなぐこと、生きること、それは決して容易いものではありません。だからこそ、生きる価値があるのです。命の重みを感じられれば、「もっと生きたい」「人生って短い」、そう思うはずです。

命って重みがあって、重みがある一つひとつの命には個性があります。そんな色々な命がある世の中だからこそ、生きづらい人生になるのです。でも、それはそういうものなのです。だからこそ、そんな生きづらい人生を楽しんじゃいましょう。人生はあっという間です。それに、色々な生きづらさの中にも、一瞬の幸せはあるものです。

例えば、道端に咲く綺麗な花を見れば、そこには必死に生きる命を感じます。あなたの目に映る、必死に生きる命は、必ずあなたに影響を与えます。必死に生きる命を感じれば感じるほど、生きづらさを感じながらも、生きたいと思うものです。

Yさん、また色々なコメント、お待ちしています。

そばにいるつながり

次に、ラジオネームひのきさん。ひのきさんからは【つながれたエピソード】です。どうもありがとうございます。

「コロナ禍や緊急帝王切開での産後の気持ちが不安定な時に、授乳室で助産師さんが私の横に「ただ居て下さったこと」が、寄り添ってもらえたなあと思います。それが「言葉」や業務で交わすものとは違い、腰を落ち着けてただ横に居て下さったこと。その方は普段はとてもテキパキと親切な方ですが、夜勤中もあり忙しいはず。その時も見守ってくれていたのだとは思いますが、非言語で共感してもらえたのだと感じる、つながれた経験になっています。」

どうもありがとうございます。自分が不安な気持ちをもつ時にそっとそばにいてくれた、というつながれたエピソードですね。言葉を交わすのでなくとも、そっといてくれるというのは、とても大切なつながりですよね。その助産師さんはあなたの気持ちを察して、今がそばにいてあげる時と思ったのでしょうね。

世の中の子どもたちも同じことを求めていますよね。子どもたちは、別に「ここにいて」「そばにいてほしい」とは言わない。そんな子どもだからこそ、そっとそばにいてくれる親の存在は大切ですよね。

子どもたちは毎日新しいことを経験します。新しいことを経験する毎日は、不安の連続です。子どもたちは不安を感じているとは自覚していないかもしれない。でも、必ず不安が生じているはずです。ちょっと不安が強くなった時には、ボディータッチも増えたりする。それは、子どもたちが親と触れ合う、つながることで、自分たちの不安を解消しようとしている証拠です。

そっとそばにいてあげるだけで、子どもたちの行動が落ち着く。子どもたちの行動に注目すると、そんなことの連続です。「同じ空間にそっと一緒にいる」。それは、子どもたちの心にとって、とても大切ですね。

冒頭でも触れましたが、あなたが「誰かにそっとそばに居てもらって安心できた」という経験を積めたからこそ、あなたは子どもや他の人にもそのことを経験させてあげられます。そう考えると、人と人のつながりは、さらに他の人へとつながります。あたたかい経験は、さらに他のあたたかい経験を生むということです。

一人ひとりが、つながりを大切にすれば、そのあたたかいつながりは、社会の中で伝播していく。そして、それはその時代にとどまりません。次の世代の子どもたちにそのあたたかいつながりを提供すれば、未来へとあたたかいつながりが伝播することがわかります。あたたかい関わりをもてる家族は、次の世代にもそのあたたかさがつながる。

でも家族という視点だけで捉える必要はありません。もしも学校の先生が、生徒にあたたかいつながりを提供できれば、その生徒はやはり自分の子どもにもそのあたたかさを経験させてあげられる。そういうものです。

家族でも、先生でも、誰でもいい。あたたかいつながりを子どもたちに提供するのは、誰だって構わない。社会がつながりの価値を意識できていればいい。そう思います。

ひのきさん、素晴らしい【つながれたエピソード】、ありがとうございます。

好奇心を育てる関わり

次に、ラジオネームみほさん。いつもありがとうございます。

「娘は昨日も学校を欠席。学校の先生によると娘は学校では大人っぽく振る舞い真面目との事。特性をカバーしようと気を張り詰めて生活している様です。なので人の何倍も疲れてしまいます。彼女なりの『気の抜き方』を見つけて欲しいと思っていました。学校休むとスマホばかりの娘が、ネットで自ら検索し中高生が自由に楽器を使える施設を見つけ、連れて行って欲しいとの事。私は『やった!』と思いました。スタッフの方にギターを教えてもらったと生き生きした表情で帰ってきました!「この子は大丈夫。信じよう」と思いました。」

娘さんが好奇心をもって、新しい世界を探索している様子がよくわかりますね。よかったですね。しかも、みほさんの「信じよう」という気持ちはとても大切ですね。お子さんが好奇心をもちながら外の世界を探索する時、親御さんの側にも不安が生じるものです。でも、お子さんの心が育つ大切な経験と思いながら、色々な世界を体験させてあげる。そうやって新しい人に会う、新しい物事を知るという経験を通して、お子さんは自分らしさに気づきます。アイデンティティが育つ、ということです。そのことを信じて、ぜひそっと支えてあげてください。

世の中では「こうでなければならない」ということを学ぶ一方で、「こうでなくてもいい」ことが多いものです。娘さんには娘さんに合った生き方があると思います。そして、それを認める社会もあるべきです。

僕自身が少年時代の頃を振り返ってみても、「こうでなければならない」という社会を感じながら育ちました。そして大人になった今、あの頃に感じた「こうでなければならない」の多くが、「こうでなくてもいい」に変わっています。でも、少年時代の自分には、「こうでなくてもいい」ということが理解できるはずもありません。だって、僕に関わる大人が「こうでなければならない」という考えをもっていたであろうからです。

やはり子どもは、大人の意見に左右されてしまう。「こうでなければならない」という柔軟性がない大人には、そういう社会しか生み出せない。「こうでなくてもいい」という柔軟性のある大人には、多様性を認め合う社会が作り出せる。そう思います。そしてこれから求められるのは、「こうでなくてもいい」という柔軟性もあり、多様性を認め合う社会です。

これまでの価値観では、これからの社会は支えていけません。これまでの価値観は、今の少子高齢化・人口減少を招く社会を作りました。社会を優先するあまり、人の生きづらさを強調してしまい、子どもを育てる意欲を削いでしまう社会でした。テストの点数や知能検査のIQにばかり目を向けていては、人の生きやすさを追求できるはずがありません。なぜなら、人の能力には、もっと色々なものがあるからです。せっかくある能力を認めることができない社会は、やはりつまらないのです。

狭い範囲の能力ばかりに目を向けていた社会が導いた結果が、今です。今という時代の実社会に、今を生きる子どもたちが満足しているでしょうか。いいえ、満足していません。だからこそ、現実の世界ではなく、空想の世界を求めます。学校現場よりも、コンピュータやゲームの世界を求める子どもが多い。

そんな風に色々思うところがあります。今日は色々なコメントにお応えしました。今後もたくさんのコメントをお待ちしています。短いコメントでも構いません。「こんなコメントを送っても迷惑かも」なんて思わなくて大丈夫です。どんなコメントも大歓迎です。子育てについての悩みでも、自分が子ども頃に経験した出来事でも構いません。一つひとつのコメントは、必ず共感を得られるところがあると思っています。「自分だけではなかったのだ」「その悩み、私も経験したことがある」という意見が必ずあると思います。そうやって、あらゆる人の経験や思いが、色々な人につながっていけばいいと思います。

そして、そういうコメントを紹介していくことでわかることがあります。それは、「苦労していない子育てなんてない」「苦労していない人生なんてない」ということです。でも、そういうことを共有しながらも、「だいじょうぶ。まあ、なんとかなる」という感じも共有できればと思います。僕自身がそういう「のほほ〜ん」という性格なので、ピリピリした社会があっても、このチャンネルに来れば、どこか「のほほ〜ん」とできればいいなと思っています。カチカチに固められた思考ではなくて、如何様にでも柔軟に変化できる思考が共有できれば嬉しいと思います。

だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。

記事のポイント!

  • 生きづらさがあって当たり前
  • そっとそばにいることに効果がある
  • 子どもの好奇心は成長の大チャンス

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