小児科医・作家
一般社団法人Yukuri-te代表理事
湯浅正太
子どもの「生きる」を考える

診断名よりも大事なもの

2022/04/24
#診断名よりも大事なもの #ワーキングメモリ #短期記憶 #子育て #小児科医 #湯浅正太

記事【診断名よりも大事なもの】

こんにちは。絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。

今日は、診断名よりも大事なものについて考えたいと思います。

このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。

【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる

ワーキングメモリとは

昨日は、短期記憶や長期記憶について触れました。人には一時的に物事を記憶する短期記憶と、経験や感情などとともに長期間記憶される長期記憶があることをお話ししました。

実は短期記憶と似た概念として、ワーキングメモリというものがあります。短期記憶とワーキングメモリは似ているようでちょっと違います。短期記憶は受け取った情報を保持することを重視した機能であるのに対して、ワーキングメモリは受け取った情報を保持して処理するところまで考えた機能です。

例えば、入学式の日にあなたは初対面の人にたくさん出会ったとします。あなたは、その出会った人たちの情報を頭の中で整理します。あるいは、出会った人のそばにいた人、通りすがりの人もあなたの視界に入ったはずです。でも、その人のことは記憶から削除されます。そして自宅に帰って、「今日はどんな人に会ったの?」と聞かれたら、その整理した情報を引き出しながら、「こんな人に会ったよ」と提示します。

そうやって、記憶という情報は、保持して、整理して、提示する、そして捨てる、という処理が行われているということです。ですから、単に覚えていると言っても、頭の中では案外複雑な処理がされて、その情報が使われているものです。

世の中には、このワーキングメモリが弱い子どもがいます。つまり、ワーキングメモリが弱いと、ある情報の短期記憶や、その情報の処理が苦手ということです。

ワーキングメモリは、どんな症状と関係するか

ではワーキングメモリが弱いと、どんな症状として現れるでしょうか。

例えば、情報の保持が弱いと、先生から指示された内容を忘れやすい、忘れ物をしやすい、あるいは板書が苦手などの症状として現れます。文章を読解したり、作文を書く場合にもその特徴が現れます。読んだ内容を一時的に頭に保持することが苦手なので、読んだ内容がなかなか理解されにくい。頭に浮かんだ内容を保持しにくいので、文章をスラスラ書きづらい。そんな様子もあるものです。

例えば、情報を整理することが苦手だと、先生から複数の指示された内容を順々にこなしていくことが苦手になります。何かを質問された時には、言いたいことの情報が整理されずに、グチャグチャに混ざってしまって、少しトンチンカンな回答をしてしまうこともあります。言いたいことはわかるけど、なんだかちょっと文章の構造がヘンだったりします。そうやって情報を整理することが苦手なので、頭の中は情報がグチャグチャしていて、落ち着きがなくなってしまいます。

例えば、情報を捨てることが苦手だと、もう必要のない情報が残ってしまうので、次の行動に移りにくくなってしまいます。周りは次の仕事をやっていても、その子だけまだ気持ちを切り替えられずにいる。そんなところがあります。

診断名よりも子どもの特徴

世の中に、注意欠如多動症あるいはADHDというものがあります。単にADHDと言っても、その人その人によって、その特徴は若干異なります。色々な得意・不得意が影響し合った結果、ADHDとして症状が現れている。そういうものです。

先ほどのワーキングメモリを考慮すると、ワーキングメモリが弱いために、情報が整理しにくく、注意を持続できない、そんな注意を持続できない症状が、その子のADHDの一症状として現れていることもあります。一方で、ワーキングメモリは強いけれど、多動なADHDの子どももいます。

つまり、ADHDという診断名だったとしても、その背景にある子どもの特徴はちょっとずつ異なるものです。ワーキングメモリが弱いのか、強いのか。あるいは、他の能力が弱いのか、強いのか。その子その子によって異なります。そのそれぞれの特徴が集まって、ADHDという診断基準に合致する状態になっているだけです。

ですから、大切なことは診断名よりも、その子その子がもつ特徴を理解する、ということです。診断名ではその子の傾向は掴めても、その子どもの中身は見えてこない。診断名が同じであっても、その子どもの得意・不得意のバランスはやっぱり異なるということです。

時々耳にする会話にこんなものがあります。「この子は、ADHDだと思いますけど、病院を受診したら、この子はADHDじゃないと言われました」。そんな会話です。診断名ばかりに気が取られてしまうと、そんな会話が行われてしまい、子どもの支援になかなか結びつかないものです。

僕は診断する立場の医師ですが、「診断名ではなく、子ども一人ひとりの特徴に目を向けてほしい」と思っています。診断が正しいとか、間違っているということよりも、例えばワーキングメモリが弱いのかどうかの方が支援に直結します。

子どもに寄り添うこと

もちろんADHDとして診断することにより、治療薬を使えるというメリットがあります。しっかり薬を内服することによって、周りの指示が入りやすくなり、行動が修正できることもあります。実際に僕の外来ではADHDと診断して薬を処方している子どもが何人もいます。

そんな僕でも、診断名よりも、その子独自の特徴の方が大切と思っています。ワーキングメモリを含めた特徴を知っていくことによって、その子なりの支援が可能になります。ワーキングメモリが弱ければ、シンプルに伝える、情報を前もって伝える、情報を目で見える形にして伝える、そんな方法が役に立ちます。

あたかも、ADHDという診断名によって、その人のことをわかったかのように思ってしまう社会があると感じています。障害というものでは、やはりその人のことはわからないのです。その人その人には、やはり個性的な特徴や、得意・不得意のバランスがあって、唯一無二の人間らしさが生まれている。そこが面白いと思っています。

今日お話ししたワーキングメモリは知能検査で確認することができます。でも、僕は必ずしもどんどん知能検査を行いましょうとは思いません。知能検査は、あくまで検査を行った時点でのその子の特徴の一部分を判断する手段に過ぎない、と思っています。知能検査で評価されること以上の、もっと生々しい、その子らしさがあるものです。

実は子どもに接することが上手な人は、今のように発達障害が有名になる前から、世の中にいました。子どもに接するときに、自分の感情を押し付けずに、寄り添いながら接することが上手な人はいたのです。そういう人からすると、知能検査を行わなくても、「この子はこんな特徴があるのね。じゃあ、こんな風に接してみようかな」と対応できてしまうものです。

子どもの特徴を理解するうえで、やはり一番大切なのは、その子のそばにいることと思っています。

そんな風に色々思うところがあります。だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。

記事のポイント!

  • 短期記憶が関係するワーキングメモリ
  • 診断名よりも、その子の特徴を理解したい
  • 子どもに寄り添う姿勢が実は大切

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