記事【子どもの苦手を得意に変えるコツ】
絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。
今日は、子どもの苦手を得意に変えるコツについて考えたいと思います。
このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。
【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる
短期記憶と長期記憶
あなたは、人に言われたことを覚えておくことは得意ですか?例えば、日中にあなたが初対面の人に会って、お互いに自己紹介をしたとします。あなたは自宅に帰った時に「今日は誰と会ってきたの?」と言われて、「顔は思い出せるけど、名前が思い出せない・・」という経験はありませんか?
あるいは、テスト勉強のために新しい英単語の意味や新しい漢字をいくつも覚えたのに、翌日になったら忘れてしまった。そんな経験はないでしょうか。
最近では、パソコンで何かのサイトを利用しようとすると、登録しているスマホにナンバーが送られてきて、その送られてきたナンバーをパソコンの画面に入力する、そういった二重認証も使われるようになりました。そんな場面では、送られてきたナンバーを一時的に覚えて、そのナンバーをパソコンで打ち込むという作業をするかもしれません。送られてきたナンバーを見ながらではなくて、ナンバーを覚えて入力する。そんな作業をしていると思います。でも、そのナンバーをずっとは覚えていられないですよね。
そのように、一時的に何かを覚えておくのが短期記憶です。
そんな忘れてしまう記憶がある一方で、あなたはこんな経験をしたことはありませんか?例えば、卒業証書を見ると、学校での楽しかった記憶を思い出す。指輪を見ると、好きな人と一緒にその指輪を買いに行った記憶を思い出す。サッカーボールを見ると、家族で一緒にサッカー観戦に行った時のことを思い出す。
嬉しかったり、悲しかったり、その時に抱いた様々な感情とともに振り返ることができる、そんな記憶があります。それが長期記憶というものです。しかも、そういった長期記憶として残っている記憶は忘れにくい。あなたもそんな風に感じるのではないでしょうか。
このように人の記憶には、短期記憶、長期記憶というものがあります。ある時点で説明されたことを、一時的に覚えていられる記憶を、短期記憶と言います。逆に、長い期間覚えていられる記憶を長期記憶と言います。
生活に現れる短期記憶の影響
短期記憶、つまり一時的に記憶していることが得意かどうかは、子どもたちの生活に影響します。
例えば、世の中には、黒板に書いてある文字をノートに書き写す「板書」が苦手な子どもたちがいます。板書をするには、黒板に書いてある文字や数字、図形を認識して、一時的に記憶にとどめて、その記憶をもとに文字をノートに書く必要があります。そのため、黒板に書いてある内容を一時的に記憶にとどめること、つまり短期記憶が苦手な子どもは、黒板の内容をノートに書き写す板書が苦手であることが少なくありません。
あるいは、先生に指示されたことを実行できない、ということも起こりえます。例えば、先生に「明日、このプリントを学校にもってきてね」と言われても、翌日そのプリントを学校に持っていくのを忘れてしまう子どもです。「忘れっぽい」「どこか抜けている」と言われている子どもの中には、短期記憶が苦手な子どもが少なくないのです。
でも、注意してください。短期記憶が苦手=記憶力が悪いというわけでもないのです。それは、短期記憶が苦手でも、ある物事を長期記憶を利用しながら覚えてしまうと、記憶できてしまうことも少なくないからです。短期記憶が苦手でも、記憶の仕方を工夫するだけで長期的に記憶できてしまう、ということです。「どこか抜けているんだけど、暗記は得意なんだよな」という子どももいるのです。
長期記憶をいかす方法
例えば、長期記憶として覚える代表的な方法には、「繰り返す」ということがあります。1回では覚えられないことでも、何度も繰り返し見たり聞いたりすることで覚えられるようになります。教科書を1回だけじっくり読むというよりも、ざっと何度も何度も教科書を読む方が教科書の内容を記憶しやすい、というのはそのためです。
そして、長期記憶として覚えるそのほかの代表的な方法に、感情を利用するという方法があります。喜びや楽しいという感情とともに記憶したものは、長期記憶としてインプットされやすいものです。例えば、外来で親御さんからこんなコメントをいただくことがあります。「この子、勉強の暗記は苦手だけど、アニメのキャラクターの名前はいくつも覚えるんですよ〜。もう不思議で仕方ないです」。そんなコメントです。子どもたちが「楽しい!」という感情とともに覚えた物事は、記憶に定着しやすくなるということです。
あるいは、経験を利用して長期記憶として覚える、という方法もあります。例えば、あなたは都道府県の名前やその場所を覚えたことがあると思います。自分が住んでいる地域でなければ、その他の県の場所を覚えられないこともあったかもしれません。
あなたが東京に住んでいたとすると、四国や九州の各県の場所が覚えにくい、というようなことがあったかもしれません。あるいは、あなたが四国に住んでいて、東京と埼玉、群馬、神奈川の位置関係を覚えにくかった、ということもあるでしょう。
でも、実際に四国や九州、東京に旅行に行って思い出をつくると、旅行先の県の位置を覚えられるようになっているものです。そうやって、経験とともに記憶するという方法もあります。
様々な記憶を経験させてあげること
人の記憶には、そんな特徴があります。「忘れっぽい」「どこか抜けている」という子どもであっても、わざと長期記憶の利用を促すことで生活しやすいくなることもあるものです。
短期記憶が苦手だと、その特徴は「忘れっぽい」「どこか抜けている」というように表に現れやすい。でも、そこに工夫を加えることによって、覚えるということをうまくこなしていくことができるようになる。そんなことを理解するからこそ、僕は子どもの可能性を信じています。
世の中には、大器晩成なんて言葉があります。幼い頃にはパッとしなかった子どもが、大人になり成功してしまう時、大器晩成という表現を使うかもしれません。例えばそれは、幼い頃に短期記憶の苦手さにばかり注目されていた子どもが、様々な経験を積む中で長期記憶を利用する術を身につけて、大人になった頃には身のこなしがうまくなっている、そんなケースもあるのだろうと思っています。
苦手な能力は、注目されやすいものです。そして、注目すればするほど、そのほかの能力が見えにくくなるものです。その見えにくくなっている子どもの可能性は、家族や社会でのつながりをどんどん育てることによって見出されるようになる。そんなところがあると思っています。
短期記憶ばかりに着目するのではなく、色々な記憶の方法をチャレンジさせてあげる。そのことを実践していくと、子どもたちのあらゆる可能性が見えてきます。すると、子どもたちの苦手は、いつも間にか得意に変わっているものです。
そんな風に色々思うところがあります。だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。
記事のポイント!
- 短期記憶が苦手でも、長期記憶を利用してしまえばいい
- 色々な経験が長期記憶に役立つ
- 見えていない可能性が子どもにある
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