記事【あなたはスクリプトを意識できていますか】
おはようございます。絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。
今日は、子どもの生活におけるスクリプトについて考えてみたいと思います。
このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。
【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる
快適に過ごせるようになる
「スクリプト」って何?、と思った方もいるかもしれません。「スクリプト」とは、生活の「ある決まったパターン」のことを言います。行動面に着目したスクリプトは、「ルーチン」や「習慣」という表現もできるかもしれません。
例えば、あなたは自宅に帰るとどうしていますか?「靴を脱いで、手を洗う」という行動をしていると思います。その決まった行動のパターンが、スクリプトです。
日常生活には、そんなスクリプトがたくさんあります。ドアを開ける時には「バッグから鍵を取り出して、ドアの鍵を開ける」というスクリプトがあります。食事をする時には「『いただきます』と言ってご飯を食べる」というスクリプトがあります。
あなたの中にこのようなスクリプトがあると、生活するうえでとても便利です。なぜなら、生活の中にある程度スクリプトが用意されていないと、いちいちその時々で考えないといけません。いちいち考えるということは、新しいことに対応しているようなものなので、ストレスにもなり得ます。
また、周りからの視点で考えてみましょう。あなたが生活の中にスクリプトをもっていると、周りの人は注意をしなくて済みます。「自宅に帰ったら手を洗う」というスクリプトがあると、周りの人が「手を洗ってね」と指示しなくて済みますね。
例えば、海外から外国人の方があなたの家にホームステイでやってきたとします。その外国人の方は、日本では「靴を脱いでから家に上がる」という習慣があることを知らなかったら、あなたはどうしますか?あなたはおそらく、「日本では、家に上がる時には、玄関で靴を脱ぐのです」というスクリプトを、その外国人の方に教えるでしょう。
すると、その外国人の方は「家に上がる時には靴を脱ぐ」というスクリプトを覚えられます。そして、あなたは「家に入る時には、靴を脱いで」という注意をしなくて済むようになる。そのことにより、あなたはもちろん、その外国人の方も、ストレスなく生活できるようになるのです。
このように、生活におけるいくつものスクリプトをもっていることによって、みんなが快適に生活できるようになることがわかっていただけたと思います。それは、子どもの生活でも同じです。子どもたちがある程度スクリプトをもっていることで、生活がスムーズにできるようになるのです。
得意な感覚を利用する
そして、このスクリプトは、ちょっとした工夫で、子どもたちの行動を適切に変えられるようになる。ここでちょっとだけ、そのことに触れたいと思います。
人には様々な特徴があります。目で見ることが得意な人もいれば、耳で聴くことが得意な人もいます。あなたが遊園地に行った時のことを想像してみてください。あなたは遊園地の入場門をくぐり、そこで「わあ〜、綺麗で大きな音が聞こえる!」と真っ先に感じるでしょうか。それとも、「わあ〜、大きくて立派なお城がある!」と感じるでしょうか。聞こえた音を認識しやすいか、見たものを感じやすいかは、人それぞれです。そんな風に、その人にはその人なりの物事を捉えやすい感覚というものがあるものです。
もしも、子どもが聴くことが得意であれば、スクリプトの初めに「聴く」という感覚を利用するのが効果的かもしれません。例えば、気が散りやすいAくんの場合です。Aくんはいつも周りの様子に気を取られてしまいます。何かを始める時も、周りに気が散って、なかなか始められない。そんな子いますよね。
でも、そういったAくんが耳で聴くことが得意だとしたら、Aくんをある物事に集中させたい時に、わざとチャイムを鳴らしてみるのもいいかもしれません。「チャイムが鳴ったら、この作業をやります」とAくんとお約束をします。そうやって、Aくんの中に「チャイムがなったら、この作業を始める」というスクリプトを用意するのです。
あるいは、もしも子どもが見ることが得意であれば、スクリプトの初めに「見る」という感覚を利用するのがいいかもしれません。自分から発言することが苦手なBくんです。Bくんは、わからないことがあっても、自分から質問の内容を考えて、誰かに相談することができなかったとします。こういうお子さんも多いものです。
そうであれば、「何かわからないことがあったら、質問を考えることは置いておいて、ひとまず『わかりません』って言ってみようね」と約束をしてみます。そういう約束をしながら、わざと教室の前に「手をあげて質問しているような子どもの絵」を飾っておきます。その絵がBくんに見える位置にあれば、Bくんはその絵を真似て、「わかりません」と手を挙げて質問しやすくなります。そうやって支援を組み立てることができるようになるのです。
このように、スクリプトを意識できることで、子どもたちは生活しやすくなります。そして、周りもその子を支援しやすくなる、というポイントがあります。
シンプルがいい
実はこのスクリプトには、もう一つポイントがあります。そのポイントとは、まずはシンプルなスクリプトから始める、ということです。例えば、幼稚園から帰ってきた時、「靴を脱いで、帽子をとって、手を洗う」というスクリプトを身につけてもらいたい場合を考えてみます。
その場合、まず覚えてもらうのは、最初の段階です。つまり、「靴を脱ぐ」というシンプルなことから身につけてもらいます。それができるようになったら、次は「靴を脱いで、帽子をとる」という2段階を覚えてもらいます。そしてそれもできるようになったら、「靴を脱いで、帽子をとって、手を洗う」というスクリプトの全工程を覚えてもらうのです。
実は人は、日常生活の中であまり意識することなく色々な行動をとっています。いくつもの行動を組み合わせて、生活しているものです。そんな生活習慣を子どもたちに身につけさせようとする時には、ぜひ「シンプルに始める」ことを意識してみてください。
子どもたちに接する時に、指導する立場の大人がこのスクリプトを意識できるか否かはとても大切です。子どもたちがスクリプトを身につけていることを確認しながら支援できると、子どもたちのストレスは明らかに軽減するのです。ストレスが減って、子どもたちは落ち着いて行動できるようになります。そして、子どもたちのスクリプトの獲得を意識できることによって、子どもの行動を見ている大人のストレスも軽減するのです。
これは、大人の世界でも使えます。新入社員が新しい仕事を覚える場面。自分自身が新しい作業に慣れる場面。そんな色々な場面で、どういったスクリプトが獲得できているかを意識してみてください。スクリプトを着実に意識していくことによって、大人の心も整理されるのです。
そんな風に色々思うところがあります。だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。
記事のポイント!
- スクリプトを意識できると快適に生活できるようになる
- その子にあった感覚を利用する
- スクリプトをシンプルに組み立てる
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