記事【そこにいてくれるだけでいい】
おはようございます。絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。
今日はNHKさんで収録があります。楽しんできたいと思います。そんなNHKさんのところへ出発する前に、この放送の収録をしています。今日は何をお話ししようかなあ、と考えています。
一昨日と昨日は、共感力について考えてみました。そして、子どもたちの共感力は、人生を柔軟に生きていくための大切な資産であることに触れました。
今日は、そんな共感力を養いながら、人とつながれる人材を育てられる環境について考えたいと思います。
このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。
【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる
つながる力を育てられるか
これまでの放送で何度もお話ししていますが、人には様々な能力があります。IQが高い人もいれば、IQが高くなくったって、人の気持ちを察する能力が高い人もいます。
学校にいると勘違いしてしまうかもしれません。テストの点数が高かったら、偉い人。暗記がたくさんできたら、偉い人。そんな風に勘違いさせてしまう環境があります。
僕が中学生や高校生の頃には、人への評価基準が、テストの点数や偏差値である生徒がいました。あるいは、大人になっても、そこから脱することができていない人もいます。僕はそのことにとても違和感を感じていますが、「やっぱり教育が、そうさせてしまうんだよな」と思っています。
社会で多くの人に会うとわかります。これまであなたが経験した教育での評価は、あなたのほんの一部分を示しているに過ぎないことが、よくわかります。
そして、色々な社会を経験すればするほど、あなたがもつ様々な能力の中で、特に貴重なものが何なのかがわかります。それが、つながる力です。
小児科医になって、人が「生きる」ということに真剣に向き合えば向き合うほど、つながる力がどれほど人生に大きく影響するのかがわかります。人が本来求めるつながり、愛こそが、やはり欠かせないことが痛いほどわかるのです。
人とつながるために、昨日までお話ししていた共感力は大切です。相手の気持ちが理解できることで、相手の気持ちに寄り添いながら、お互いの関係を快適な方向へと発展させることができます。
つまり、共感力が育つことで、人と人とがつながりやすくなる、ということです。
つながりを評価をする社会
では、子どもたちの共感力を育てることも含めて、人とつながれる人材を育てるために必要な環境とは何でしょうか。それはやはり、つながる力をしっかり評価できる社会があることです。
このことを理解していただくために、障害とともに過ごす環境を考えたいと思います。世の中では、家庭の中に障害のある子どもがいる場合、その兄弟姉妹のことをひだがなで「きょうだい児」と示すことがあります。
そのきょうだい児は、障害のある兄弟姉妹と過ごすことによって、豊かな心を養う環境が提供されると言われています。数値で示せる偏差値やIQが「認知能力」とすれば、数値で示せない、人への優しさなどは「非認知能力」と言えます。障害に関わる環境で過ごすことは、この非認知能力を育てる環境に値するということです。
例えばきょうだい児は、障害ということに惑わされずに、障害のある人の人権を養護する気持ちを抱くことも指摘されています。障害によってその人のことがわかるわけではない。その人にはその人らしさがある。そういったことも、自然と理解するようになります。
でも、きょうだい児という立場の子どもたちがみんな、そんな豊かな心を養って社会で生き生きと暮らせるようになるかと言うと、そうとも限りません。それは、何故でしょうか?
例えば、現実の世界ではこんなことが起きます。権利擁護の意識が高くなったきょうだい児が、学校で生活する。その学校には、自分と違う者を排除しようとしてしまう子どももいるわけです。自分と違う肌の色をもっているから、その相手を排除しようとしてしまう。そういったことです。それが、いじめです。
きょうだい児自身がいじめを受けるということではなくて、誰か別の子どもがいじめを受けていたとしましょう。それを見たきょうだい児は、権利擁護の意識が高いあまり、人の権利を傷つける場面を許せない気持ちが強く現れます。きっとそのいじめを止めに入るでしょう。
でも、そのいじめを止めに入って、今度はそのきょうだいがいじめられてしまったら、どうでしょう。そして、そのままきょうだいに味方する者が現れなかったら、どうでしょう。つながりを尊重できない今の社会には、そういった危うさがあるのです。権利擁護の意識をもっている者を、救えない社会があるのです。
存在に価値を感じる社会
ですから、つながる力を尊重する環境を大切にしたい。学校であれば先生が、子どもたちのつながる力を尊重するべきです。「勉強は確かに大切だけれど、もっと大切なものがあるんだ。それが、つながる力なのだよ。君たちには、そのつながる力が隠れているんだ。人の気持ちを思いやったり、人を愛したりして、大人になってもつながる力を大切にしてね」。そうやって教育してほしいと願っています。
そしてもちろん、そのつながる力をつくる出発点は、そうです、家庭です。家庭の中で親とつながる。そういった経験を親子でたくさんつくる。そのうえで、学校でつながりを尊重する教育がなされて、先生やお友達とつながることで、ようやくつながる力が育つのです。家庭から、学校から、社会から、つながることが尊重される環境だからこそ、先ほどのきょうだい児の気持ちが生かされます。
つながることが尊重される環境だからこそ、きょうだい児あるいは子どもたちは、「いろんな人がいていいんだよ」と言えるのです。多様性を尊重する社会が育つのです。
テストの点数や偏差値ばかり強調されていたら、「偏差値が高い人がすばらしい」と、勘違いしてしまう生徒が増えてしまいます。勉学の知識はあくまで、社会をよりよくするために生かすもの。そのことを理解させてあげなければなりません。
そうやって、つながりの価値を意識できる社会では、こんなシチュエーションも生まれます。なかなか物事をわかってくれない同僚や友達がいたとします。「あなたは、なかなかわかってくれないねえ(笑)でも、いいの。そこにいてくれるだけで、いいの」。
つながりの価値を意識できれば、そんな風に、そこにその人の存在を感じられるだけでよい、という捉え方ができるようになるはずです。そしてその価値観は、あなたの人生を必ず支えます。
人はいつか必ず最期を迎えます。命には、必ず終わりがあるのです。僕も医師として様々な最期を見てきました。最期を迎えた後、しばらくは「亡くなったその人がいない」ということを意識します。でも、・・です。
あなたが生きている現在を考えてみてください。パソコンの画面を見ながら、あなたの周りには誰もいないかもしれません。このvoicyを聴いている今、周りには誰もいないかもしれません。
でも、あなたは誰かの表情を思い浮かべます。話を聴きながら、誰かのことを考えて、その人のことを感じるでしょう。そうやって、人とつながっているのです。
見えないけれどつながる世界
すると、あなたは理解できると思います。その人が今目の前に存在しなくても、あなたはその人とつながれるのです。むしろ、現実の世界であっても、実際に誰かがそばにいるというシチュエーションよりも、あなたの心の中で誰かがそばにいるというシチュエーションの方が多いのです。
あなたの心の中に、その人はいるのです。
そのことを理解できると、あなたは死を少し違った角度から捉えられるかもしれません。もしもあなたが大切な誰かを失ったとして、あなたと同じその場にいないことを嘆くようになったとして、あなたに問いかけてみてください。
「本当にその人はそこにいないの?」
いいえ、その人は、あなたの心の中にいます。現実の世界では、実際には会っていないのに、心の中で感じてホッとしているのです。会うこともなく、でもつながっている人たちがたくさんいます。もしも、あなたの大切な人が現実の世界にいなくなったとしても、心の中にはずっといるのです。
つながりの価値を理解できるようになると、そのことを理解するようになります。
すると、先ほどのセリフの意味が理解していただけると思います。「あなたは、なかなかわかってくれないねえ(笑)でも、いいの。そこにいてくれるだけで、いいの」。
そんな風に色々思うところがあります。だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。
記事のポイント!
- つながる力を評価してもらいたい
- 相手の存在に感謝できる心を育てたい
- 心でつながる世界がある
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