子どもの「生きる」を考える
子どもの「生きる」を考える
小児科医・作家
一般社団法人Yukuri-te
代表理事 
湯浅正太
みんなとおなじくできないよ

コレがきっかけで変わる共感の世界

2022/04/18
#これがきっかけ #コレがきっかけで変わる共感の世界 #共感 #子育て #小児科医 #湯浅正太

記事【コレがきっかけで変わる共感の世界】

おはようございます。絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。

今回は、人の共感についてお話ししたいと思います。

このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。

【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる

女性と男性の違い

リスナーの方から、共感についてのご質問をいただきました。どうもありがとうございました。

「こんにちは。いつもありがとうございます。同じ世界を見ていても、見え方が違う。分かっているつもりでしたが、色々な事をきっかけに、最近強く感じています。家族で見ている世界は、同じでも感じ方が違う・・。特に夫とは、子どもへの感じ方、考え方が異なります。もっと子どもに共感して接してほしいです。そこで、この「共感」について教えてください。私が当たり前だと思っていた、他の人への共感・・もしかするとこの共感も人それぞれなのでしょうか。その場合、共感が苦手な人と上手く付き合っていく上で大切なことはどんなことでしょうか?」

「共感の仕方は、人それぞれか」、そして、「共感が苦手な人との付き合い方」ということですね。とても大切なことと思います。

まずは、「共感の仕方は、人それぞれか」についてです。答えは、「はい、共感の仕方は、人それぞれ」です。みんな、相手の気持ちを察する能力が異なります。そして、自分の気持ちを表現する能力も違います。

共感力という能力を、相手の気持ちを感じる能力、そして相手の気持ちを感じた後に自分の感情を表現する能力に分けましょう。一般的にそのどちらの能力も、女性は男性に比べてとても高いです。それは、女性と男性の生き物としての違いです。仕方ありません。

女性は、相手の気持ちを敏感に察することができます。相手の気持ちを察することができるから、相手に配慮しやすい。相手の気持ちを読んで、相手にそっと手を差し伸べます。そのため例えば、コミュニケーション能力をしっかり評価基準に入れた採用試験があれば、間違いなく女性が多く採用されます。そういうものです。

そして、相手の気持ちを察した後に、自分の気持ちを表現する能力です。これも女性は高いのです。しかも女性は、自分の気持ちを聞いてもらいたい欲求が強い傾向にあります。だからこそ、立ち話をするのは、男性同士より、女性同士の方が圧倒的に多いはずです。女性は、話したい欲求が強いのです。

男女差別という次元を超えて、そもそも女性と男性とではコミュニケーション能力が異なります。やはり、コミュニケーション能力は、もともと女性の方が高いのです。そのことを理解してください。

そんなコミュニケーション能力が高い女性と一緒に暮らす社会でよくあるシチュエーションには、こんなことがあります。ある現場で、男性社員が何か気の利いたことをして、周りの女性社員に「すご〜い」と言って褒められる場面です。

一見配慮できた男性社員が褒められる場面でも、実際には男性社員のその気配りは、女性社員にとっては当たり前のことだったりします。でも、男性社員がしてくれた気配りが当たり前であっても、そのことを口にせずに、周りが楽しくなるように女性社員は演出してくれます。

そして、その女性社員の気配りに、その男性社員は気づかないかもしれません。「えへん!」と胸を張って勘違いしていることもあるでしょう。そんなことが女性と男性でつくる社会では、日常茶飯事に起きています。

でも僕は、それでいいじゃないか、と思っています。そして、それでいいじゃないかと思うけれど、男性はその事を理解していた方がいいとも思っています。

そうやって、共感できたり、察する力に差があるからこそ、面白いやりとりが生まれます。人の社会では、そういった違いを楽しむことができる。だからこそ、喜怒哀楽も生じて面白いのだと思っています。

女の子と男の子の心を様子

そして実は、相手の気持ちを察する能力が高いから、人生がハッピーになるかというと、それはそうとも言えない現実がある。そのことに触れたいと思います。

例えば、小児科医として子どもたちを診察する中で感じるのは、やはり女の子のコミュニケーション能力の高さです。明らかに女の子の方が言葉の発達が早く、よく喋ります。兄弟姉妹で、男の子と女の子を育てたことがある親御さんであれば、納得していただけるかもしれません。

幼いうちは、言葉の発達が早い、理解力がある、といって嬉しくなります。でも、それには続きがあります。

そんなコミュニケーション能力が高い女の子が、中学生頃の年頃になります。すると、女の子同士のグループを作りたがる傾向を示します。色々なお友達と話しながら、相手の気持ちを察するなどして、女子力をアップします。

そうやって相手の心を察することを多く経験しながら、一方で傷つきやすくなるのも、女の子の特徴です。中学生女子は、心の中にストレスを溜めて、精神的な問題を抱えやすい傾向があるのです。

ちなみに、そうやってストレスを感じた時の表現方法も、女の子と男の子では違います。

男の子であれば、ストレスを感じたら、暴力などの体の表現で自分のストレスを表現する傾向があります。一昔前では、校舎の窓ガラスを割ったり、校門のあたりにたむろったり、タバコを吸ってみたり。そんな男の子もいたかもしれません。みんな、外へ外へとアピールします。アピールしてくれるので、ストレスがわかりやすい、とも言えます。

一方で、女の子は、心の中で静かに乱れる傾向にあるのです。穏やかな表情をしながらも、心の中で大きく乱れながら、リストカットをしたり、うつ的な状況になることもあります。頭痛などの表現で、心の中の葛藤を表現することも珍しくありません。心の中で静かに、でも大きく乱れていきます。

どうでしょう。相手の心を察しやすい能力があるというのは、長所にもなるし、短所にもなり得る。そんなものです。

そんな女の子にとっても、男の子にとっても大切なこと。それは、いかに自分を愛せるか、ということです。周りを敏感に感じ取っても、ストレスを溜め込んでも、「自分は自分でいい」と思える心をもっていること。それが、とても重要なのです。

それは、親も同じです。心が健康であれば、その心は鏡のように、自分を見ている相手に反映されます。自分がイライラしていれば、相手もイライラします。すると周りの環境はイライラした状況になるものです。

当たり前ですが、世の中には自分と同じ心をもった人はいません。自分というのは、唯一無二の存在なのです。そんな自分と、まるっきり同じ気持ちをもつ人間など存在しません。

もしも、あなたが自分のことを愛して「自分は自分でいい」という心を得ると、実は「相手も相手でいい」という心が獲得できるようになります。不思議なものですが、そういうものです。すると、あらゆる場面で心の平静が保てるようになります。自分の心が穏やかだから、あなたに接している相手も心穏やかになるのです。

ですから、他人は自分ではないのだから、気持ちも違って当たり前。そんな風に軽く捉えてください。自分と同じところが少しでもあれば、ラッキーな体験をしたと思ってみてください。

ここまで、女性と男性ではコミュニケーション能力が異なること、その能力が高いから良い、低いから悪いという簡単なものではないことに触れました。そして、自分を愛して他人を受け入れる心についてもお話ししました。

実は、自分を愛する心を手に入れるための原点は、幼い頃の親子のつながりにあります。それは、かまってもらいたい時に、かまってくれたという経験です。

逆に、かまってもらう経験が少ないと、自分への自信が少なくなり、認められたいという欲求が過剰になります。あるか、なしかという極端な考えの中で過ごすことにもなりかねません。

でもそのことをこれ以上お話しすると、大きく脱線してしまうので、幼い頃の経験のお話はここまでにしておきます。

共感を簡単と思ってしまう現代

ではここからは、共感が簡単なものと勘違いしてしまう、今の社会についてお話ししたいと思います。

僕は小児科医として、冒頭でお話ししたような「女性と男性の違い」を理解したうえで、注意していることがあります。それは、相手に共感できると思い込まないということです。相手のことを分かった、と思い込まないということです。

若い医師と話をしていると、こんなセリフを聞くことがあります。「私は共感することが得意です」「僕は、相手の気持ちを察することが得意です」。そんなことを教えてくれる子がいます。

人の気持ちに関心をもっているということは、とても良いことです。相手の気持ちを知ろうとすることにも、とても感心します。でも、相手を理解することをそんなに容易いことと思い込まないこと。それは実は、大切なことと思っています。

ただ誤解しないでください。相手の気持ちはどうせわからないし、完全に共感できないから諦めた方が良い、ということではありません。逆です。相手の気持ちを理解できないかもしれない、十分には共感できないかもしれない、だからこそ、相手の気持ちは分からないだろうから寄り添う姿勢が大切、ということです。

実は今の時代は、誰かに共感するということが、あたかも簡単にできるものと錯覚しまう世の中です。例えば、SNSです。SNSの「いいね」ボタンを押せば、あたかも共感できたかのように理解してしまう。

その影響をもろに受けるのは、子どもたちです。このSNSが普及し始めた時代を生きる子どもたちは、共感を誤解してしまうのです。「ボタンひとつで共感できる。共感って、なんて簡単なのだろう」。そんな風に誤解してしまうのです。

そんな子どもたちが、実際に学校に来るとどうでしょうか。学校に来て、友達と話をします。SNSなどの文字による情報交換とは違い、表情や身振り手振りを見ながら、相手と話します。そんな現場では、SNSでのやりとりとは違った、なんだか生々しい感情を抱くようになります。

そんな現実世界のコミュニケーションを通して、「人と話すって、なんだか面倒くさい」「人間関係が窮屈」、そんな印象をもつようになる子どもも、少なくありません。だからこそ、学校に行って直接会うことが億劫になります。

「やっぱり人とやりとりするには、SNSの方が楽!」「人と直接会うよりも、スマホをいじってる方が楽!だって、顔色をうかがわなくていいもん」。そんな子どもたちが増えてしまいます。

でも、本来の人とのコミュニケーションって、顔色をうかがうことなんです。表情や声のトーンとともに、感情の揺らぎを感じながら話す。それが本当の「人とのコミュニケーション」です。あたかも便利な今の環境では、そのことが理解しにくいのです。

ここまで、「共感が簡単なもの」と勘違いしやすい、現代社会の状況についてお話ししました。SNSによって、共感しやすい環境が生み出されているかのように感じるけれど、やはり現実世界の共感とは違った「軽さ」「危うさ」があることに触れました。

どうでしょう。本来は難しい「共感」というものを、簡単なものと思ってしまう。それにより、実際の生の人間関係を窮屈に感じてしまう、生きづらさが生じてしまう。そのことを分かっていただけたでしょうか。本来の共感が難しいものだからこそ、偽りの共感に慣れた子どもたちに問題が生じているのです。

共感って、難しいんです。難しいからこそ、共感を得ようと寄り添おうとするのです。分かり合えない人同士が寄り添うからこそ、「わかろうとしてくれて、ありがとう」という感謝が生まれます。そういうものです。

これからの教育

ここからは、そんな今の社会がおこなうべき子どもたちへの教育を考えたいと思います。

これからの時代を生きる子どもたちには、やはりSNSの世界と現実世界ではコミュニケーションの質が違う、ということを教えてあげなければなりません。だから今後、子どもたちへのコミュニケーション教育は、変わらないといけません。コミュニケーションの本質を教育しなければならない、ということです。

SNSによって簡単に誰とでもつながれるようになり、生々しいコミュニケーションの「面倒くさい」部分が削ぎ落とされました。表情を感じることなく、言葉のやりとりができます。どんな気持ちをもっていても、「いいね」ボタンを押せばその場をやり過ごせます。子どもたちは、そんなことを経験しているのです。

今はデジタルの機能が進んで、確かに便利になりました。今の子どもたちは、そんな便利な時代に生きて、恵まれた環境であるはずなのに、実際にはそうとも言えない環境なのです。それはどうしてでしょうか?

それは、SNSが普及し始めた時代だからこそ、SNSを利用する前に事前に届けるべきはずの情報が子どもたちに届けられていないからです。SNSを使ううえでの注意事項が子どもたちに教育されないまま、子どもたちはSNSにさらされてしまっています。

子どもたちは、SNSが便利だから、恵まれた時代と勘違いしてしまうかもしれません。でも、そういったSNSを使いながら、心を病んでしまう子どもたちもいるのが現実です。それって、本当に恵まれているのでしょうか。

人としての自分の許容範囲を超えて、あらゆる人とつながってしまう。自分の感情とは違う「いいね」も押したりして、自分の感情とは違う付き合いが生まれてしまう。それにより、知らず知らずのうちに、子どもたちの心が病んでいきます。

そんな問題が明らかになりようやく、大人たちは動くようなりました。「これじゃマズイぞ。子どもたちの心が、乱されていくぞ。しかも、ドラッグのように中毒性をもって、子どもたちの心を蝕んでいくぞ。」と言って対応に追われています。

これからの学校教育には必ず、どのように正しくSNSを使うか、という教育が盛り込まれます。そうでなければ、大人になった時に、生の人とのつながりをうまく築けないことが予想されるからです。

ここまで、本当の共感は難しいけれど、SNSの時代では、あたかも共感が簡単にできてしまうかのように錯覚を起こしてしまうということ、だからこそSNSなどの正しい使い方の教育が必要であること、をお話ししました。

時間が長くなってしまったので、「共感が苦手な人との付き合い方」については、明日お話ししたいと思います。明日は、実際の臨床現場で使っている、共感に関するアプローチ方法について話ししたいと思います。キーワードは、斜め45度です。

そんな小児科医としての心のやり取りの仕方を書いた書籍を、もうじき出版させていただきます。このvoicyでもアナウンスさせていただきますので、ぜひ手に取って読んでいただければと思います。

医療現場は、あらゆる気持ちが錯綜する場所です。喜びもあれば、悲しみや怒りといった感情も起こりやすい場所です。

もしも自分の心を操ることをしなければ、どうなると思いますか?心がヘトヘトになって仕事を続けることが難しくなります。では、医学教育の中で、自分の心の操り方を教えてくれるかというと、教えてくれません。

だから、時々見かける状況というのは、こんな感じです。学生のうちには勉強を頑張って、物事の処理能力を高めていたつもりでいる若い医師。色々な本も読んで、あらゆる人の感情を理解しているつもりでいる若い医師。

でも、そんな医師があらゆる感情が渦巻く医療現場に投げ出されると、いつの間にか心が疲れて、ミスも多くなって、自分を責めて職場から離れる。そんな子もいるのです。

医療現場では、気持ちのやりとりの連続です。だからこそ、そのやりとりをしながらも、自分の心を保つ術を身につけていないと、自分の心が参ってしまう。そうならないように、心の保ち方を本にしました。

そしてそれは、子育てや、あらゆる職場の人間関係にも使えると思っています。もう少ししたら、その書籍のことをこのvoicyでも宣伝できると思いますので、ぜひvoicyを聴き続けてみてください。

だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。

記事のポイント!

  • 共感力には男女差があるもの
  • 共感を簡単と思い込んでしまうSNS時代
  • 本当のコミュニケーションについて教育を

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