子どもの「生きる」を考える
子どもの「生きる」を考える
小児科医・作家
一般社団法人Yukuri-te
代表理事 
湯浅正太
みんなとおなじくできないよ

つながりを重視するからこそ見えてくるもの

2022/04/13
#つながりを重視するからこそ見えてくるもの #子育て #小児科医 #湯浅正太

記事【つながりを重視するからこそ見えてくるもの】

絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。

今回は、つながりを重視するからこそ見えてくるものについて考えたいと思います。

このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。

【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる

不思議な安定感

あなたは、子どもの良さ、その子らしさって考えたことはありますか?そこにいるだけで、その空間をそっと優しくしてくれる。その存在が温かい雰囲気を感じさせてくれる。そういった良さを感じたことがあるでしょうか。

僕は人とつながることができる人ほど、そのことを理解できると思っています。そして、その人とのつながりが強ければ強いほど、その人らしさを感じられると考えています。そこに、今の教育の課題があるとも考えているのです。

例えば、僕が小児科医として子どもたちと向き合う時のことを考えたいと思います。僕の外来には、病気や障害のある子どもが来てくれます。その子どもの中に、知的障害のある子どもがいました。

その子は、いつもちょっとぼーっとした表情をしています。何か質問をすると、しばらく考えて、ちょっと間が開きます。そして、ようやくボソボソっと答えてくれます。穏やかにボソボソっという感じです。

その会話の間だったり、その静かで穏やかなボソボソっという感じに、その子らしい温もりを感じます。しかも、僕に向き合う様子は真面目です。両手を膝の上に置いて、じっとこちらを見てくれます。そんな真面目な様子で、ボソボソっという感じです。

その子と向き合うと、話をしている僕はどんな気持ちになると思いますか。ホッとした気持ちになります。それまでのせわしかった外来の空気が和みます。時間が少しゆっくり流れて、不思議な安定感を感じます。そこに、その子の価値を感じるのです。

やっぱり違うじゃないか

世の中には、色々な評価基準があります。知的能力やテストの点数で評価する方法もあります。それは誰が見ても数値で評価できるから、比較することが楽かもしれません。学校では、そういうことのオンパレードです。

僕は学校という環境で学びながらも、「こういうことを学んだら、本当に立派な大人になれるの?」「何か違うぞ」とは感じてきましたが、社会に出てみるとやはりその通りでした。

社会で働くようになると、「ん?、何か違うぞ」、と感じるようになるのですね。学校で評価されていたことが、社会で評価されるとも限らないぞ、と気づきます。社会で働いてみると、学校での評価に物足りなさを感じるということです。

子どもたちの教育にはもっと、人の気持ちに寄り添える、人とつながれる能力を育てる教育があってもいいのではないか。そう感じるようになります。「おはよう」の挨拶を笑顔でかわせたり、「大丈夫?」と慰めてあげられる心。色々な個性を認められる心。そういった能力の方が、社会生活では明らかに役に立ちます。

僕が受けたかった教育

先ほどお話しした、知的障害のある子どもの話に戻ります。その子に向き合う僕は、明らかに和やかな気持ちになります。それは、その子の醸し出す雰囲気すべてから、温かいものを感じるからでしょう。人を威圧したり押し付けがましい何かを感じるのではなく、そっといてくれるという感じです。そのことに、僕は価値を感じるのです。

仮に僕が向き合う人が、勉強がよくできて、テストで良い点数を取るような、社会で評価されるかもしれない能力をもっていても、イライラしていたり、人のペースに配慮ができない人だと、僕は疲れてしまいます。すると、その人と向き合っている僕やチームみんなの生産性が落ちるわけです。

社会生活を送る中で様々な人に出会いながら、僕はやはり、心を和やかにしてくれて、人とつながれる人材に価値を感じています。でもそれって、先ほどもお話ししましたが、少年時代から変わっていません。学校という教育現場でも違和感を感じながら学び、自分が社会人になって、「やっぱりそうか」という感じなのです。

今会社に就職する時には、障害者枠が設けられていることがあります。僕の働く病院にも、物事のやりとりや会話が苦手なのだろうと思う方がいます。廊下ですれ違う時に挨拶を交わしたりして、そのことを感じています。その時に感じるのは、やはり少しホッとする感覚です。忙しい医療現場の中で、ちょっと安心する感覚を覚えます。

そういった経験をしながら感じるのは、先ほどの、今の教育が評価するものと、実際に僕が「いい!」と感じるもののズレです。

今の社会で評価できている人の価値って、ほんの一部分です。今の社会には見えていない価値がたくさんある。埋もれている可能性がたくさんある。それに気づけていない。そう感じています。

そこを見出せる教育が子どもたちに提供されれば、もっと健全な価値観で人に向き合える社会ができあがると思っています。そんなことを思いながら、僕が少年時代に受けたかった教育や思想を、このvoicyも含めて、僕の法人Yukuri-teから発信していきたいと思います。

色々あるかもしれませんが、だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。

記事のポイント!

  • その子の良さを感じられているか
  • 社会が評価しきれていない、その人の良さがある
  • つながりを見出せる教育を

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