記事【小児科医が初めてのマネジメント経験から得たもの】
おはようございます。絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。
今回は、初めてのマネジメント経験から得るものについて考えたいと思います。
このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。
【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる
初めての当直
あなたは、初めて何かを自分でマネジメントした時のことを覚えていますか?初めて友達と遊園地に遊びに行った時のこと。初めて大きな仕事を任された時のこと。初めて子どもと一緒に過ごすようになった時のこと。
ワクワクした気持ちもある一方で、初めてであればもちろん緊張したり、ちょっと不安もありますよね。初めてだからその後の展開が理解できない、なんてこともあります。そうやって、わからないことがある。だから、不安になるものです。
僕も、小児科医になって初めて夜の当直を任されるようになった時は、そんな感じでした。初めての当直なので、やっぱり緊張するわけです。どんな患者さんが来るのかな。自分で対応できるかな。そんな不安があるわけです。治療のマニュアルなんかを白衣のポケットに入れたりして、当直の準備をしていたことを思い出します。
ちなみに、医師が当直をする時、何か応援が必要な時のために、もう一人先輩医師が自宅で控えているものです。現場で待機しているわけではないけれど、当直している医師が困った時に助っ人として相談できる「オンコールの医師」が決まっているものです。「オンコール」というのは、いつでも電話連絡して相談できる、ということです。
僕が初めての当直を行った時も、そうでした。僕がこれから当直の仕事に入るという時に、オンコールの先生が僕に声をかけてきてくれました。「何かあったら連絡ちょうだい」。そうやって明るい優しい声をかけてくれたんですね。
そのさりげない一言は、僕の不安な心を支えてくれました。何かあっても頼れる存在がいる。そうやって頼れるものがあるからこそ、何かに頑張れる。そういうものです。「何かあったら連絡ちょうだい」、そんな声をかけてもらって、「よし頑張ろう」という気持ちになったものです。
そうやって当直が始まると、もう次から次へと病気を抱えた子どもたちがやってきます。僕が心配している暇もないほど、バタバタした救急外来でした。喘息の発作でやってくる子どももいれば、救急車でやってくるけいれんの子どももいました。
診察をして、検査を行って、薬を処方して。救急外来の診察室で診療していたら、「救急車が到着しました」と呼ばれて、患者さんやご家族に「ちょっとお待ちくださいね」と言いながら、救急車の対応に向かう。そんなこんなで、バタバタです。
僕とオンコールの先生の心
当直は夕方から始まるのですが、そうやって対応しているうちに、気づくと夜中の0時になっていました。夕方から0時まで患者さんが途絶えることなく受診されていたのです。そうやって、緊張も忘れるくらい、あっという間に時間が過ぎていったのです。
そしてそうやって診療を続けているうちに、ホッとする経験もありました。症状があるため夜間の救急外来を受診して、検査をして、治療をする。すると受診をした時の症状が改善する。その症状の原因が判明する。そういったことを繰り返し経験するため、こちらもどこかホッとするのですね。
患者さんは、受診された時には不安な表情を浮かべながらやってきます。「喘息で咳が止まらないんです。」「突然意識がなくなってけいれんをし始めたのです。」「発熱が続いているのです。」
症状が続いてたいへん。症状の原因がわかない。そんな思いがあるからこそ、患者さんあるいはご家族は不安です。でも、検査を行って、原因を突き止めて、治療をする。そうやって症状がよくなったり、症状の原因がわかると、患者さんあるいはご家族の表情は穏やかになります。その表情を見た僕も、ホッとします。そんな経験をしました。
そうやってがむしゃらに働いて、気づいたら、朝でした。初めての当直では、一睡もできませんでした。緊張もしていただろうし、患者さんもひっきりなしに受診していたのです。
そして、自分がどれだけ緊張していたかがわかるのは、当直が終わった後です。「初めての当直が終わった〜」と思いながらホッとする。するとしばらくして、どっと疲れが出てくるんですね。そうやって、「やっぱり僕は、こんなに気が張っていたんだ」ということがわかるのです。
大人である僕であっても、こんな調子です。子どもであれば、どうでしょう?子どもの時期は、もちろん初めてのことだらけです。緊張もするし、不安もある。それが子どもの時期です。
そんな時期を乗り越えられるのは、やはり支え続けてくれた存在を感じられるからです。「あなたを見ているよ」という親の存在を感じられるからこそ、初めての経験が多い子どもの時期を乗り越えていけるのです。
僕の初めての当直には続きがあります。実は当直明けにまた、オンコールの先生に会ったんです。すると、「よくがんばったね、疲れたろう」、そう言いながら笑って声をかけてもらいました。声をかけてもらった僕も、やっぱりホッとします。
色々な診療現場で経験を積んで、上司という立場も経験して、今なら僕も分かります。あの時のオンコールの先生の気持ちがわかるのです。きっとオンコールの先生も、僕が当直に入る時には「当直大丈夫かな」という不安があったはずです。そして僕の当直が終わったら、「よかったあ、当直を無事に終えて」とホッとする気持ちもあったのだろうと思います。オンコールの先生の中にもそんな不安がある中で、そっと優しく声をかけてくれた。今はそう理解しています。
以前もお話ししましたが、相手に不安が生じた時には、その相手を見ている自分にも不安が生じてしまうものです。そして自分が不安を感じるからこそ、相手に優しくなれない人もいるのです。
それはやはり、優しさと思うんですね。
後で感じる感謝
未熟だったあの時にはわからなくても、今色々な経験を積んだからこそわかる、その優しい心のやりとり。その心のやりとりが理解できるからこそ、今とても感謝をしています。あの時の経験は、僕にとって、懐かしいいい思い出なのです。
子どもも同じです。親から支えてもらっている、大人から支えてもらっている。そういうことを、子どものうちはわからないものです。親がどんな気持ちで、言葉をかけてくれたのか。親がどんな気持ちでお弁当をこしらえてくれたのか。子どもには想像もつきません。
でも、子どもはいつかきっと理解します。あの時は、親はこんなことを思っていたのかもしれないな。親はきっと心配していたんだろうな。そうやって理解するものです。そうやって感謝するものです。でもやっぱり、それまでには時間がかかるのです。
子どもの発達は、なだらかな坂ではありません。色々な物事をすいすいできるようになる、というものではありません。子どもの発達は、階段のようです。なかなかできるようにならないなあ、と思っていても、ある時急にすうっとできるようになる。そしてまた、その状態のまま停滞する。その繰り返しです。
子どもたちに、何かを経験してもらう時、発達は階段状と覚えていてください。できないことがあっても、いつかすうっとできるようになる。不思議ですが、そういうものです。
そういう理解を持ちながら、親が子どもを支え続ける。子どもには不安もあるだろうから、「必要な時には、いつでもそばで見ているよ」と感じさせてあげる。それが子どもたちの成長にとって、とても大きな力になる。
自分が初めてマネジメントした出来事を考えると、子どもの緊張や周囲からの声かけの大切さが理解できます。不安が見えたら、不安ではなく、安心感を提供してあげる。人生のイベントって、その繰り返しなのだと思います。
そんな風に色々思うところがあります。だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。
記事のポイント!
- 初めての経験を振り返ろう
- 子どもと親の二つの心が理解できる
- 支えることの大切さ
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