記事【雑談から見えてくる個性】
絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。
今回は、雑談から見えてくる個性について考えたいと思います。
このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。
【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる
雑談のバランス
あなたは、よく雑談をしますか?雑談をする時、聞く側に回ることが多いですか?それとも、しゃべる側に回ることが多いですか?
世の中には、相手の気持ちに同調することが上手な人や、話の話題をいくつももっていて、その場にあった面白い話題を提供できる人がいます。
僕は小児科医として、診察室の中で子どもと雑談をすることがあります。そんな雑談をしていると、子どもたちの個性がよくわかります。
僕の目を見ながら、自分のことを話したり、僕の話を聞いてくれる子ども。ずーっと自分のことを話してくれる子ども。質問をしても、その質問に対する答えではなくて、他のことを話そうとする子ども。それぞれの子どもたちが、色々な個性をもっていることがよくわかります。
そしてそんな、子どもたちが見せてくれる雑談のバランスが、その子の生活に反映されているものです。つまり、子どもと雑談をすると、その子の生きやすさ、生きづらさが見えてくるということです。
自分のことばかり話す子ども
例えば、質問をしても、その質問に答えるのではなくて、他のことを話そうとする子どもについて考えてみましょう。そういった子どもとの会話では、こんなやりとりがあります。
「今日は外寒くなかったかな?」
「あのね、僕ね、こんなおもちゃが好きなの」
「へえ〜、このおもちゃが好きなのね。このおもちゃは、なんていう名前なの?」
「僕ね、昨日、ハンバーグ食べたの」
こんな風に、質問をしても、その質問とは違う答えが返ってきてしまう場合があります。こういった場合、自分のことが大好きな子なのねと思いますか?僕はそういった子どもに出会うと、人の話を理解することが難しい、人の話を違ったように捉えてしまう。その可能性を考慮します。
そう思うからこそ、その子どもの生活を想像します。相手が話した内容を理解しづらい。だから、お友達からお願いされたことを実行できずに、お友達とのトラブルが起きるかもしれない。先生から指示されたことを理解しにくいから、周りのお友達の行動を見て真似しながら、どうにか生活をやりくりしているかもしれない。そんな世界を想像するのです。
自分の気持ちがわからない子ども
例えば、別の子どものことを考えてみましょう。こちらが質問をしても、「わかんない」という返事が多い子どもです。
「え〜、その時どう思ったの?」
「え〜と、わかんない」
「それを触った時、どんな感覚だったの?」
「え〜と、わかんない」
こんな風に、自分が感じている感覚を認識できない子どももいます。優しい言葉をかけてもらえたから、「嬉しかった」とか。外は寒かったけれど、温かいスープを飲めたから、「ホッとした」とか。自分がどう思ったか、どう感じたか、それを言葉で表現することが苦手な子どももいるのです。
そういった子どもの生活を想像すると、こんな風です。自分が疲れた時に、しっかり疲れたと感じることが苦手。疲れを感じることが苦手だから、しっかり休憩することができない。自分の身体は疲れているけれど、お友達と無理して遊びに行ってしまって、翌日から寝込んで学校を連日休んでしまう。そういった生活も想像されます。
子どもたちと雑談すると、子どもたちの生活が想像できます。そして、その想像はたいてい当たっています。それだけ、雑談には、その子を知る手がかりが満載なのです。
本当の雑談力
子どもたちとの雑談は、その子どもを知る手がかりになるだけではありません。子どもたちとの雑談は、子どもの世界を外の世界とを結びつける役目もあります。そのために行うこと。それは、子どもたちが話した内容を、大人が自分の言葉にして子どもへ返してあげるという作業です。
「嬉しいっていうことだよね」、「今はちょっと疲れているのかもしれないね」、「周りのお友達は、びっくりしたのかもしれないね」。そんな風に、子どもが感じているかもしれないことを、大人からあえて子どもに言い返してあげる。あるいは、周りが思っていることを、そっと丁寧に言ってあげる。そういった作業を通して、子どもを外の世界に近づけてあげることができます。
そうすると、子どもたちの中に生まれるものがあります。それは、安心感です。周りの世界のことが理解できる。あるいは、自分の感情を、自分も理解できて、周りの人も理解できる。そうやって、子どもと外の世界の距離が縮まることで、ホッとできる。だからこそ、子どもたちは生きやすくなるのです。
実は大人の世界でも、この方法を使います。大人の中にも、なかなか自分の気持ちを相手に伝えることが得意ではない人がいるものです。その人が仕事をうまくこなしていればいいのですが、そうでないと生きづらさを感じてしまうことになります。
気持ちの表現が苦手な人は、周りから一方的に、「あの人は、人の気持ちがわからない」とか、「自分のことしか考えていない」とか、そんな風に周りから責められてしまうことも少なくありません。
人は、自分の気持ちを相手に伝えることができれば、自分の心の中をスッキリすることができます。でも、自分の気持ちを相手に伝えられなければ、どうなるでしょう?どこかで、心が不調になってしまいます。そして、何かがうまくいなくなります。突然学校に行かなくなったり、突然会社に行かなくなる。そんなこともあります。
そんな風に、人の雑談からは、その人の色々な世界が見えてくるものです。そして雑談はその人を救う手段にもなり得るのです。
雑談力を上げよう、と勧める書籍はたくさんあります。でも、世の中には雑談力をあげようとしても、あげられない人もたくさんいることを知っています。
そんな世界を知っている僕からすると、雑談力をあげられる人にお願いしたいことがあります。それは、ぜひ雑談を通して相手を理解しようとする力を養ってもらいたいということです。相手に配慮できるからこそ、雑談力がある。そう思っています。
この人は話が上手だなあと思う人ほど、相手のことへ配慮します。相手のペースを感じることができる。相手の心への配慮ができる。相手が傷つくようなことは決して口にはしません。本当の雑談力を理解していれば、先日のアカデミー賞の授賞式のような出来事は起きないのです。
雑談力を通して、そんな風に色々思うところがあります。だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。
記事のポイント!
- 雑談から子どもの生活が見えてくる
- 雑談を通して子どもを外の世界とつなぐ
- 雑談で欠かせない配慮
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