記事【小児科医が思う子育てとリーダーの条件】
絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心に関わる物事を、気ままに発信しています。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。
今回は、子育てとリーダーの条件というテーマでお話ししたいと思います。
このブログ記事の内容は、Voicyでも配信しています。
【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる
見通す力
あなたは、「見通す」という言葉を使いますか?「これから先の見通し」という使い方や、「君の心はお見通し」なんて使い方をするかもしれません。そんな「見通す」という言葉には、色々な意味があります。
・目に見えない物事を見抜く。
・物事のなりゆきを予測する。
・初めから終わりまでを見る。
・遠くの方まで見る。
「見通す」という言葉には、そんな色々な意味があります。僕は、この「見通す力」こそ、リーダーが備えておくべき力と思っています。そしてそれは、子どもたちを支えるリーダーである大人についても同様のことが言えます。
今日は例えば、「見通す」という中でも「目に見えない物事を見抜く」という意味での「見通す力」を、子どもに関わるシチュエーションで考えてみましょう。
子どもの嘘に隠れたもの
例えば、こんな子どもがいました。その子を仮にAくんと呼びましょう。Aくんの家庭では、お父さんもお母さんも毎日働いていて、Aくんはおばあちゃんと一緒にいることが多かったんですね。お父さんもお母さんも仕事で忙しいので、家族みんなでどこかへ旅行に行くなんて機会はありませんでした。
ある時、Aくんの授業参観がありました。もともとその日は、いつものように両親ともに仕事のために授業参観に出席できない予定でした。でもたまたまお母さんが仕事を休めるようになって、急遽授業参観に出席できるようになったそうです。
もちろんAくんは、お母さんが授業参観に来てくれるとは思っていませんでした。いつものように、Aくんはお母さんが来てくれるはずがないと思いながら、授業を受けていたんです。そんな授業参観に途中から、お母さんがそっと参加しました。そして教室の後ろの方から、Aくんの様子をこっそり見ていたのです。
その時に行われていた授業が、家族との思い出を書こうという授業でした。そんな授業の中で、ある子が手を挙げて自分の思い出を話したんです。それは、家族で遊園地に遊びに行ったという思い出話しでした。家族みんなで乗り物に乗ったり、みんなでお食事をしたことが楽しかった、と言う内容だったそうです。
その子のお話が終わった後に、「俺も遊園地に行った」「私も〜へ行った」という声があがって、その中に混じってAくんも発言したのだそうです。「僕もこの間遊園地に行ったよ」、屈託のない笑顔でそう言ったのです。
Aくんの発言を聞いて、お母さんはドキッとしました。お母さんには、Aくんが嘘をついていることがはっきりとわかったのです。だって、両親とも忙しくて、Aくんと遊園地に行く機会なんてなかったのですから。
Aくんが嘘をついたことに、お母さんは初めは驚きました。「なんでそんな嘘をつくのよ」、そんな風に思ったそうです。でもそんな嘘をついた我が子の後ろ姿を見ていたら、次第にAくんへの申し訳ない気持ちがお母さんの中に込み上げてきました。
Aくんはきっと、家族みんなでどこかに行きたい、そんな気持ちを抱きながら生活していたのかもしれない。そんな風に我慢させてしまっていたことを思うと、お母さんはやるせない気持ちになったとおっしゃっていました。
これが、子どもに関わる大人が身につけておきたい、「目に見えない物事を見抜く」という意味での「見通す力」です。子どもの嘘の向こう側にあるものを見抜くということです。
子どもの嘘に発達を感じる
子どもが嘘をついた時、注目したいポイントはネガティブなところではありません。子どもの嘘を見破って、子どもを叱るということに注目したいのではないのです。大人が子どもの嘘に直面したときには、子どもの発達を感じたり、その嘘をつかなくてはいけなかった、その背景にまで目をこらせるか、それがとても大切と思います。
嘘というと、何だかネガティブな印象を受けますが、子どもにとっての嘘はとても重要な意味があります。もっと言うと、人にとって嘘は、自分を守るための大切な手段でもあるのです。
例えばカメレオンは、自分の体の色を変えて周囲のものを騙します。えものを獲るため以外にも、敵に気づかれないように体の色を変える。そうやって周囲を騙すことで、自分の命を守っています。
嘘をつくという行為は、子どもたちにとって自分たちを守る行動になるのです。そして子どもが嘘をつくことができることは、子どもたちが発達しているという証拠なのです。
これまで子どもが嘘をつくことについて、たくさんの研究が行われてきました。嘘をつくことに関連してよく引用されるものには、「心の理論」というものがあります。これは、子どもが相手の気持ちを察することができるようになる、という心の働きのことです。この「心の理論」を獲得するからこそ、子どもは嘘をつけるようになるということです。
そしてこの嘘をつく行為は、およそ3歳ごろから可能になるとされています。特に、自分のために嘘をつくことよりも、自分ではない他人を助けるために嘘をつくことの方が早くに達成できるようになるという報告もあります。
嘘をつけるようになるというのは、子どもたちが社会で生きていくうえで、子ども自身を守ったり、子どもにとって大切な人を守るために大切な手段になるのです。
世の中には、相手が子どもであっても大人であっても、相手の行動の裏に隠れている心を見通して、そっと寄り添うことができる人がいます。相手がソワソワしていたりイライラしていても、その心に同調せずに、相手の不安な気持ちに寄り添う。頼りになるリーダーには、そんな「見通す力」をもっていてもらいたいものです。
まあそんな風に、色々思うところがあります。だいじょうぶ。まあ、なんとかなりますよ。
記事のポイント!
- 子どもの嘘は発達した証拠
- 子どもの嘘の裏にあるものを感じる
- 心を見通す力が欠かせない
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