子どもの「生きる」を考える
子どもの「生きる」を考える
小児科医・作家
一般社団法人Yukuri-te
代表理事 
湯浅正太
みんなとおなじくできないよ

エリクソンの発達段階:具体的内容

2021/12/19

記事【エリクソンの発達段階:具体的内容】

絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。エリクソンの発達段階について、その具体的な内容を見ていきましょう。

【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる

発達段階の各テーマ

エリクソンは、人の心が社会との関わりの中で育つ様子を、8つの発達段階で示しています。そして、各段階の時期に解決されるべきテーマを設けています。しかもそのテーマには、「生きやすさにつながる、獲得したいテーマ」と、「生きづらさにつながる、克服したいテーマ」の2通りがあります。これら2通りのテーマは、どちらか一方だけを獲得するというものではなく、両者ありながらも、その関係性の中で子どもの心が発達するとされています。(このテーマを専門用語で、心理・社会的危機や発達課題と表現しますが、分かりやすさを考慮して、ここではこれらの専門用語は使いません。)

そして、そのテーマを解決することで得られる「生きる上での強み」と、解決できなかったことで生じる「生きる上での問題」を示しています。

エリクソンは、人の人生を8つの段階に分けたため、もちろん大人の時期の発達段階もあるわけです。でもここでは、子どもの発達について考えたいと思いますので、子どもの時期の発達段階についてのみお話したいと思います。

エリクソンの発達段階では、子どもの時期を、0歳~1歳半の乳児期、1歳半~3歳の幼児前期、3~5歳頃の幼児後期、5~12歳の学童期、12~18歳頃の青年期と分けています。

ここで注目したいのは、その年齢の幅です。1段階目の乳児期は0歳~1歳半と約1年間であるのに対して5段階目の青年期は12〜18歳と数年以上の期間が設けられています。

このように、子どもの発達段階は、幼い頃ほど、短いスパンで変わっていきます。幼い時期ほど、短い期間に重要な段階が凝縮されているということです。子育てをしていると、1年、2年はあっという間に過ぎていきます。ですから、気づいた時にはもうその時期は過ぎていたということのないように注意してもらいたいと思います。

それでは、各発達段階を見ていきましょう。

乳児期

まずは、0歳~1歳半にあたる「乳児期」です。

この時期の「生きやすさにつながる、獲得したいテーマ」は、「信頼感」です。

この時期の「生きづらさにつながる、克服したいテーマ」は、「不信感」です。

これらのテーマを解決することで得られる「生きる上での強み」は、「希望」です。

これらのテーマを解決できなかったことで生じる「生きる上での問題」は、「引きこもり」です。

この時期のテーマを解決するうえで大切な関わりは、「母親」との関わりです。

赤ちゃんは一人では生きていけません。泣くことで母親に様々な要求を伝え、自分の世話を求めます。そうやって、母親からのあたたかい適切なケアを受けることで安心して生活でき、「みんな助けてくれるんだ」という「信頼感」が構築されていきます。

しかし一方で、赤ちゃんへのケアが乱暴だったり、赤ちゃんの要求を聞いてもらえない状況だと、「誰も助けてくれない」という「不信感」を抱くようになります。

ですから、この0歳~1歳半にあたる「乳児期」には、人に対する「信頼感」を獲得できるか否かの大切な時期なのです。

そしてこの「信頼感」を獲得して得られるものが、「希望」です。人が社会で生きる上での「希望」の源はここにあるのです。赤ちゃんへのケアが不適切で、「信頼感」を抱けない子どもの心が育ってしまった場合には、人生の「希望」を抱きにくくなります。それは、子どもの生きる姿勢に大きな影響を及ぼし、「引きこもり」という問題を生じうるのです。

幼児前期

次に、1歳半~3歳にあたる「幼児前期」です。

この時期の「生きやすさにつながる、獲得したいテーマ」は、「自律性」です。

この時期の「生きづらさにつながる、克服したいテーマ」は、「羞恥心」です。

これらのテーマを解決することで得られる「生きる上での強み」は、「意志」です。

これらのテーマを解決できなかったことで生じる「生きる上での問題」は、「強迫」です。

この時期のテーマを解決するうえで大切な関わりは、「親」との関わりです。

イヤイヤ期とも言われる第一次反抗期があるのが2歳前後ですから、イヤイヤ期はこの時期に当てはまります。自分は他人と違うんだという意識がはっきりしてきて、自我が芽生える大切な時期です。

それまでは何もかも母親にケアしてもらっていた子どもが、これまで頼っていた母親から離れて、自分を見つける大切な時期です。歩いて物をとることもできるようになり、しゃべって自分の気持ちを伝えることもできるようになっていきます。身の回りのことを自分でやれるようになるのです。

そういったこの時期には、「自分でやりたい!」という意志が強く現れます。自分でやりたいことを制止されると、「イヤイヤ」と自己主張するようになるのです。そういった時に、親がチャレンジの機会を与えてあげれば、意欲をもって物事に取り組もうとする「自律性」を獲得します。

しかし、親が子どもに「ダメ!ダメ!」と言って、子どもの挑戦をどんどん妨げてしまったり、挑戦に失敗した子どもを過度に叱ったりすると、子どもはどうなるでしょうか。子どもの自主性は育たず、「羞恥心」という生きづらさをもつようになり、新しいことに挑戦しようという意欲は生まれづらくなります。

そして、「羞恥心」ではなく「自律性」を獲得できた先にあるものは、「意志」です。子どもにチャレンジの機会を与えて「自律性」を獲得させてあげることで、その後の人生における様々な問題にも立ち向かえる「意志」が育つのです。

もしも、親が子どもを否定することが続き「羞恥心」が大きくなってしまった場合、何事をするにも自分の行動に自信がもてず不安が強まる状態が生まれてしまいます。(その状態を、専門用語で「強迫」と言います。)

幼児後期

そして、3~5歳頃にあたる「幼児後期」です。

この時期の「生きやすさにつながる、獲得したいテーマ」は、「積極性」です。

この時期の「生きづらさにつながる、克服したいテーマ」は、「罪悪感」です。

これらのテーマを解決することで得られる「生きる上での強み」は、「目的」です。

これらのテーマを解決できなかったことで生じる「生きる上での問題」は、「制止」です。

この時期のテーマを解決するうえで大切な関わりは、「家族」との関わりです。

この時期の子どもは、外の世界に関心をもつようになり、「なんで?」「どうして?」を連発しながら積極的に物事を知ろうとします。お友達と活発に遊びながら、冒険をしようとする時期でもあります。そういった経験を通して、「積極性」を獲得していきます。

子どもの「なんで?」「どうして?」という疑問に答えながら、興味・関心を応援して冒険をさせてあげることで、「目的」をもって行動する子どもの心が備わります。

一方、積極性があるあまり、親が子どもの関わりをうっとうしがったり、子どもを強制的に押さえつけようとすることで、ダメな子なんだと「罪悪感」を覚え消極的になってしまいます。すると、目的意識をもって自ら行動しようとすることが苦手になってしまいます(専門用語で「制止」と言います)。

ただ、社会的にいけないことを教えることも多くなる時期なので、過度に否定することがないように指導のバランスに気をつけながら「積極性」を育てることになります。

学童期

5~12歳の、主に小学生の時期に当てはまるのが、「学童期」です。

この時期の「生きやすさにつながる、獲得したいテーマ」は、「勤勉さ」です。

この時期の「生きづらさにつながる、克服したいテーマ」は、「劣等感」です。

これらのテーマを解決することで得られる「生きる上での強み」は、「適格」です。

これらのテーマを解決できなかったことで生じる「生きる上での問題」は、「不活発」です。

この時期のテーマを解決するうえで大切な関わりは、「学校」との関わりです。

この時期には、勉強する事の楽しさを学んだり、宿題などを通して計画的に物事をやり抜く力をつけるようになります。この小学生の頃の過ごし方が、社会人として生きる上での「勤勉さ」を作るとされます。そういった経験を通して自分の能力にも気づき、社会において自分の「適格」を考えながら対処する基礎を身につけることになります。

一方で、その子どもの理解度にそった対応ができない場合には、「自分はできない」という劣等感を抱いてしまう場合もあります。特に勉強をするうえで叱られてばかりだと、子どもの抱いた劣等感により、その後の安定した社会活動を行えず「不活発」になってしまう可能性があるのです。

青年期

12~18歳の「青年期」です。

この時期の「生きやすさにつながる、獲得したいテーマ」は、「アイデンティティー」です。

この時期の「生きづらさにつながる、克服したいテーマ」は、「アイデンティティーの混乱」です。

これらのテーマを解決することで得られる「生きる上での強み」は、「忠誠」です。

これらのテーマを解決できなかったことで生じる「生きる上での問題」は、「役割拒否」です。

この時期のテーマを解決するうえで大切な関わりは、「集団」との関わりです。

アイデンティティは、このエリクソンが提唱した概念です。それは、自分とはどんな人間かを理解し抱く感覚です。この青年期は、そういった自分探しの時期です。自分とはどんな人間かということを考えるようになり、自分の価値や能力を理解する時期です。そして、現実的に自分の将来を考えることになります。

自分らしさを大切にし、自分の決めた物事に忠実に生きようとする「忠誠」を獲得します。たとえば、「病気で困った人を助けたい」などと強く思い、医師になる志ができるということです。

一方で、アイデンティティーが確立できないと、自分らしさを表現することができなくなってしまうアイデンティティーの混乱が生じます。そして、自分らしさを認められずに、社会における自分の役割や価値を拒否してしまう状態になります(専門用語で「役割拒否」と言います)。

だからこそ、この時期に大切なのは「集団」を感じるということです。自分がどんな人間かという感覚を得るには、色々な人と会ったり話したりして、「集団」を感じることが大切なのです。社会で生きることを感じながら、アイデンティティーを確立していきます。

記事のポイント!

  • 各発達段階でのテーマを意識しよう
  • 発達段階の1〜3段階はあっという間に過ぎていく
  • 周りの関わりがあるからこそ、子どもの心は育つ

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