子どもの「生きる」を考える
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小児科医・作家
一般社団法人Yukuri-te
代表理事 
湯浅正太
みんなとおなじくできないよ

障がいのある子どもの将来【就労支援の移り変わり】

2021/12/02
    

記事:障がいのある子どもの将来【就労支援の移り変わり】

絵本「みんなとおなじくできないよ」作者で、小児科医の湯浅正太です。先日、障がいのあるお子さんをお持ちのお母さんに、将来の就職についてご質問を受けました。そういったこともあり、今回は、障がいのある方の就労支援の移り変わりについて、簡単にお話ししたいと思います。

【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる

僕は、子どもの心を豊かに育てるためには、親の心の余裕を生み出すことが欠かせないと考えています。そういった視点で考えると、子どもが抱える問題ついての見通しを親御さんが理解できるように促すことは、非常に重要なミッションだと思っています。

病気や障がいのある子どもを育てるうえで、親に不安はつきものです。例えば、お遊戯会でうまく踊れているかな。学校で楽しく生活できているのかな。そんな不安を抱くものです。

そして、子どもの将来についての不安も抱きます。子どもがどんな仕事につけるのだろうか。障がいを理解してくれる上司や同僚に巡り会えるのだろうか。そんな不安が出ては消えてを何度も繰り返すものです。

そんな親にとって、見通しをもてるということは非常に重要です。人は、見通しをもてることによって、不安が軽減するものです。障がいのある我が子への不安を抱える親が、子どもの将来の就職について知識を得ることは、その問題への見通しをもつことにつながります。

しっかりした見通しでなくても構いません。なんとなくこんな現状があって、こんな風に物事が展開していくのか。そんな大雑把な見通しで構いません。見通しをもつことで、不安が軽減し、心の余裕が生まれるものです。

子どもの問題に関して、少しでも見通しをもてることで、親の心に余裕が生まれる。親の心に余裕が生まれると、その影響は、目の前にいる子どもへの関わりに現れます。子どもと、そっと優しく会話ができる。子どもの身体に、そっと優しく触れることができる。そうやって、親の心の余裕は、子どもへの関わりにいい影響を及ぼします。

ですから今日は、障がいのあるお子さんをお持ちのお母さんやお父さんに向けて、障がいのある方の就労支援の移り変わりについて簡単にお話ししたいと思います。このお話を聞いて、少しでも将来への見通しを提供できればと思います。

就労支援の移り変わり

障がいのある方の就労支援について、大きく3つのことを理解いただきたいと思います。

それは、「就労継続支援」、「就労移行支援」、「就労定着支援」の3つです。

そして、「就労継続支援」から「就労移行支援」に、「就労移行支援」から「就労定着支援」という流れがあることを理解してください。

「就労継続支援」

まず、「就労継続支援」についてです。

50年以上前まで、障がいのある方が就職するのに困難な時代がありました。しかし、1976年に「障害者雇用促進法」が施行されたのと同時に「就労継続支援」という福祉サービスが始まりました。この「就労継続支援」という福祉サービスを利用すると、障がいによって企業で働くことが困難な場合に、「就労継続支援事業所」と呼ばれる事業所で働きながら、体調にあわせて働く準備をしたり、就労訓練や仕事をおこなうことができるようになりました。この福祉サービスには、「就労継続支援A型」や「就労継続支援B型」といった福祉サービスがあり、利用期間は無制限です。「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」については、他の記事で説明しておりますので、そちらをご覧ください。

この「就労継続支援」のポイントは、障がいや病気のために一般企業での就労が困難な人々を対象とした福祉サービスということです。ですから、働く場所は一般企業ではなく、「就労継続支援事業所」と呼ばれる事業所です。

「就労移行支援」

次に、「就労移行支援」についてです。

「就労継続支援事業所」のような事業所ではなく、一般の企業に就労を希望する障がいのある方は、就職までの一連の流れをサポートしてくれる「就労移行支援」を利用できます。2006年に「障害者自立支援法」が施行されて、この「就労移行支援」が始まりました。これは、障がいのある方が、一般企業などに就職できるよう支援を受ける制度です。利用期間は2年間です。そうやって「就労移行支援事業所」で就職に必要なことを学ぶことができるようになり、障がいのある方が一般企業に就職するケースも増えました。

この「就労移行支援」のポイントは、事業所で働き続けるのではなく、一般企業などに就職することを目指した支援ということです。

「就労定着支援」

そして、「就労定着支援」についてです。

ここまでの「就労継続支援」と「就労移行支援」の2つによって、障がいのある方の就労する数は増加しました。しかし、そこには問題がありました。それは、就労後に職場定着せずに離職してしまうケースが多かったのです。就職してもやめてしまう、ということです。

この課題に対応するため、2018年に「障害者総合支援法」を改正して、この法律の訓練等給付の対象となるサービスとして開始されたのが「就労定着支援事業」です。これによって、事業所の担当者が定期的に障がいのある方と面会して、職場の環境や生活リズムを聞きながらアドバイスをしたり、勤務先や医療機関、福祉機関などと連携を図って、障がいのある方にとって働き続けられやすい環境になるよう調整できるようになったのです。利用期間は3年間です。

この「就労定着支援」のポイントは、就労後に働き続けられるように支援するということです。

どうでしょうか。ここまで、「就労継続支援」、「就労移行支援」、「就労定着支援」の3つをご説明しました。

障がいのあるお子さんが成長して就職する時には、こういった就職して働きやすくなるような支援があることを知っておいてください。そして、少子高齢化・人口減少によって働き手の人口構造が大きく変わるこれからの日本では、障がいのある方が働ける環境をいかに作り出すかは、とても大切な課題なのです。

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