子どもの「生きる」を考える
子どもの「生きる」を考える
小児科医・作家
一般社団法人Yukuri-te
代表理事 
湯浅正太
みんなとおなじくできないよ

子育てを通した学び直し

2023/04/23

記事【子育てを通した学び直し】

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【この記事の執筆者(湯浅正太)の自己紹介】小児科医(小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医)&作家。病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹(以下、きょうだい)を支援するための絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者。自身もきょうだいとして育ち、小児科医として働くかたわら、子どもの心を育てる一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)を設立し活動している。詳しくは、法人ホームページをご覧ください。絵本「みんなとおなじくできないよ」を Amazonで見てみる書籍「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」を Amazonで見てみる

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こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。

今日は「子育てを通した学び直し」というテーマでお話ししたいと思います。

あなたは、子どもの頃に学んだことをベースに、今大人の世界で自由に豊かに自分を表現できていますか?自分の生きがいを見出して、自分の生まれてきた意味はこれだったんだなんて喜びに満ち溢れていますか?

あなたは成長するに従って、色々なスキルを身につけてきたと思います。学校という環境に身を置いて、テストという試練を何度も何度も潜り抜けてきたかもしれません。そんな苦労をしたきたのだから、生きやすさを獲得できている。そう言える大人はどのくらいいるんでしょうか。

正直なところ、子どもの期間を通して「人として生きること」をわかるというものではないですよね。それは人にとって一生の課題かもしれないくらい奥が深いものと思います。

ただ、子どもの発達を考える機会というのは、この「人として生きること」を考えさせられる大きなチャンスであることは間違えありません。

子どもの頃から色々な経験をさせてもらった僕も、小児科医になって、かつ、親として生きて感じるのは、子育ては生きやすさを学び直すいい機会ということです。それは決して、受験戦争における勉強からでは得られないものでしょう。そのことを考えてみたいと思います。

僕は小児科医として、たくさんの子どもたちやその親御さんと向き合っています。その対話の中で理解するのは、親御さんが子どもたちと過ごす中で、あらためて人の生き方を問い直す機会に恵まれるということです。つまり、親にとって子育てとは、学び直しの機会を手に入れることと言えるかもしれません。

小児科医もそうだと思います。子どもの生き方、親の生き方、そういったものに間近で向き合うからこそ、「こういった経験の先にはこういった結論が待っているんだ」、そういったことを理解するようになるんです。「子どもの時期にこんな経験をした子は、その後こんな人生を歩むことになる」、その人生のパターンを学ぶということです。

子どもの頃に笑顔で溢れた関わりの中で育った子は、他人へ温かい関わりを提供できるようになります。それは綺麗事ではなく、本当にそうなんです。幼い頃に虐待を経験した子は、落ち着かない行動をとったり、人の気持ちを理解できない状態に陥ることがある。それは決して生まれつきのものではなく、後天的にそのような状態になってしまうということです。

そのように、子どもが経験した関わりが、その後どんな展開を生むのかには、ある程度パターンがあるのです。そういうパターンを知るからこそ、「この関わりはこういう結果を招きますよ」とか、「今のこの子の行動は、こういった関わりからくるものですよ」と言えるようになるんです。

親というのは、その人生のパターンを自分の子どもを通して学ぶわけですね。ただ、もちろん親にとってそのパターンを学ぶ対象が自分の子どもだけですから、なかなかそのパターンを認識することは難しいかもしれません。それでも、自分の子どもを育てるうちに、近所の子、そのほかの子といったように様々な子どもの育ちを知るようになります。そうやって徐々に「この経験をしたら、この子はこんな風に育つ」、そんな風にパターン認識できるようになるものです。

そして面白いことに、そんな子育ての経験を通して理解するようになるのが、自分の心の成り立ちです。子育ては、自分の人生を振り返る機会にもつながるということです。今の自分の心はどうやって出来上がってきたのか。どんな関わりがあったから、自分の今の心があるのか。そのことを分析できるようになる、ということです。

小児科医や親が、そんな風に人の心の成り立ちを理解するようになる大きなポイントがあります。そのポイントが、自分自身の経験です。つまり、子どもの時期を経て成長するということを自分自身で一旦体験しているからこそ、客観的に捉えられるようになる、ということです。

例えば、サッカーも、野球も、それ自体を自分自身で経験したことのある人は、結局どんなことがその物事の習得にとって大切なのかがわかるようになります。逆に、それに触れたことがない人にとっては、そのこと自体を語るのはちょっと難しいかもしれません。

それと同じように、自分自身で子どもの頃を経験しているからこそ、子どもとはどんなものなのかを客観的に分析できるようになるということです。

子どもの時期には何が何だかわかりません。何が正解なのか、何が誤りなのか、それを社会から学んでいます。今まさにその教育を受けている子どもたちは、大人に言われることに半信半疑になりながらも、結局従うでしょう。あなたもそうだったと思います。

そんなあなたが大人になって客観的に物事をみれるようになったからこそ、あなたが子どもの頃に受けた教育にどんな効果があるのかを分析できると思います。「あの教育のここが大切だった」とか、「やっぱりあの教育は不要だったんじゃないか」、そんな風に感じることができるはずです。

人の心の発達についても、それと同じことが言えます。自分が子どもの頃は自分の成長を客観的にみることは難しい。でも、親になって、自分ではない他人である子どもを見ながら、人の発達を客観的に観察できるようになる。すると、人にとって、どんな関わりがどんな結果を生み出すのかが見えてくるものです。しかも、自分自身の子どもの頃の経験も参考にしながら、目の前の子どもの心を想像することもできるでしょう。

あなたが子どもの頃、おそらく学校でたくさんのことを学んできたと思います。「挨拶をしましょう」「目をみて話しましょう」「相手の気持ちを考えましょう」、そんな言葉をどこからか聞いた覚えがあると思います。

ただ、子どもの頃には、周囲の大人から受けたそういった指導に従うものの、果たしてその行動の本質的な意味を理解していたかというとそうでもないでしょう。挨拶にどんな意味があるのか。挨拶にどんな効果があるのか。そんなことを考えて挨拶をしている子どもはいないでしょう。礼儀として挨拶をする。言われたから挨拶をする。その程度だと思います。言われたからやるということだと、いつしかその行動は薄れていくものです。そんなものです。

そんなあなたも大学生になって、サークルや部活に入ってみて、先輩や後輩や同期と挨拶をしてみると、なんだか周りの人と交流しやすくなる。挨拶している自分も、なんだか気持ちがいい。そんな経験を通して、挨拶ってやっぱりなんだか大事なのかなあなんて思ったこともあるかもしれません。

そんなあなたが大人になって、子どもを育てるようになる。家庭に挨拶の習慣ができると、家庭に笑顔が増えることがわかる。挨拶といったコミュニケーションが、実はとてつもなく大きな影響力を持つことを理解するようになる。

そして、そんなあなたが今度は会社で部下を指導する。まだまだ挨拶の効果を知らない部下は、ろくに挨拶もしない。子どもを育てていない若者に、挨拶の魅力をどう伝えるかを考える。

そんな風に、同じ物事であったとしても、それぞれの人生のステージで学び直しがあるものです。ですから、子どもの頃に気づけなかった価値に、大人になって初めて気がついた。そんなこともあるわけです。

そのことは、「人としての内面が成熟する」とも表現できるかもしれません。子どもの頃は理解できなかなった物事に対して、歳を重ねるとともに心が豊かになって、その物事の価値を理解できるようになった。そんな人は少なくないと思います。

そんな風に、子育てを通して人の生き方の学び直しをすることで、あらためて気づくものがあります。それは、繰り返しになりますが、自分というものです。自分自身がどんな人間なのかに気がつけるようになります。その時に苦悩する親御さんもいれば、生きやすさを手に入れる親御さんもいる。そういう世界です。

例えば、「不安を抱えやすい」という特徴があることに気づかれる親御さんがいます。そんな親御さんが育てるお子さんにも不安が強い心が育つものです。

それは、新しい物事があると、その度に親御さんに「大丈夫かしら」「嫌だな」なんて気持ちが生まれるからです。そんな親御さんが、気づくと自分の子どもにも「大丈夫?」なんて声もかけていたりする。そのサイクルが子どもの不安を助長する。そんな現実があります。

子育ての中で子どもを通して見えてくるのは、自分自身つまり親自身ということです。自分の心がうつる子どもの姿が見えてくるものです。

自分では気づけず、他人も遠慮して指摘してこなかった、自分自身の特徴に子育てを通して気づく。そんなケースは決して珍しくありません。

「子どもの行動が、親御さんの行動そっくり」、そんなことはしょっちゅうあることです。まさに子どもが自分の鏡のようなもの。子どもを見て、ハッと自分の特徴に気づくことができる。子育てにはそんな効果があります。やはり子育ては、まさに自分のことを学び直すチャンスなんですね。

ある時、こんなことがありました。「気分屋」というレッテルを貼られて病院に連れてこられたお子さんがいました。僕の前ではしっかり挨拶してくれるし、椅子にもちゃんと座っていられます。そんな子がどうして「気分屋」なんて言われてしまうのか。何やら、親御さんと一緒に外出すると突然キレたりすることがあるからだそうです。

そのご家庭では、お父さんは社会で俗にいう「エリート」という立場で生きている人でした。「人との関わり」が苦手でも、知識や処理能力に長けているから社会で評価され続けてきた。そんなタイプの人でした。そういったタイプのお父さんが子どもと接する際には、子どもにとって大切な「関わりの質」を考えることなく、合理的でシステマチックな関わりをしてしまうことも少なくありません。

そして面白いことに、その子の態度はそのお父さんの態度そっくりだったんですね。「気分屋」はその子であり、そのお父さんだったわけです。遺伝という見方もあるかもしれませんが、その言葉で片付けてしまうのは大人の勝手な都合です。

子どもは、周りの関わりで変化し続ける貴重な存在です。気まぐれな態度ではなくて、ある程度感情が一定した関わり。それをそのお父さんと話しながら、その子に向き合ってもらいました。1年、2年かけて少しずつですが、その子は「気分屋」から「普通の子」に変わっていきました。

こんな風に、子育ては、親が生き方を学び直すチャンスです。子どもが大人になる前にそのチャンスをものにできるか。そのチャンスに向き合わないことほど、もったいないことはありません。

今日は「子育てを通した学び直し」というテーマでお話ししました。

だいじょうぶ、

まあ、なんとかなりますよ。

湯浅正太(ゆあさしょうた)

PROFILE
2007年 3月 高知大学医学部 卒業。小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。

一般社団法人 Yukuri-te(ゆくりて)

『みんなとおなじくできないよ』

障がいのある「おとうと」がいる小学生の「ボク」。おとうとのことを好きだけど、ちょっと恥ずかしく、心配にも感じている。複雑な感情と懸命に向き合って「ボク」がたどり着いた答えとは?「きょうだい児」ならではの悩みや不安、孤独な気持ちが当事者の視点から描かれた絵本。湯浅正太著/1760 円(日本図書センター)

『みんなとおなじくできないよ』

診察する, 治療する, 命と向き合う, …医師として働くとはどういうことか, 患者さんにどう接するか, “正解”はなくとも「考えて答えを出していかねばならない」倫理的なテーマについて医学生/研修医に向けて解説。小児科医であり絵本作家でもある著者が, 医療現場のエピソードに沿った「物語」を提供し, 読者に考えてもらいながら倫理観を育んでいく。「明日からの診療に役立つ一言」も記載し, 躓いたとき, 迷ったときに心の支えとなる書籍。湯浅正太著/2420 円(メジカルビュー社)

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